春めけば姫踊子草も繰り出せり
( はるめけば ひめおどりこそうも くりだせり )


今日取り上げる「姫踊子草(ひめおどりこそう)」は、昨日取り上げた「仏の座(ほとけのざ)」と同じシソ科オドリコソウ属の草花である。

比較してみると、ピンク色の小さい花はよく似ているが、葉の形や付き方は全く違う。

 


 

「姫踊子草」はスペード形の葉を対生させるのに対し、「仏の座」は仏像の台座(蓮華座)のような葉を茎の周りに段状に付ける。

同じ仲間でありながら、何故かくも違うのか。何か戦略的な意図があるのではないかと思って調べたが明確な答えは見いだせなかった。


*仏の座


 

前書きが長くなったが、本日の掲句は、名前にある「踊子」に注目して詠んだ句である。浮き浮きした気持ちで踊る情景を連想して詠んだ。「仏の座」ではこんな句は詠めない。

「姫踊子草」は春の季語。「春めく」も春の季語なので、本句は季重なり。



 

ところで今回は、中七を「姫踊子草も」とし九音の字余りにした。「姫」を取って「踊子草の」とすれば七音で落ち着くのだが、こうすると別の句になってしまう。というのは、「踊子草」(下写真)という草花が別にあり、夏の季語になっているためである。

植物名が長い場合は、字余りも良しというのが自己流のルールなので、その点はご容赦のほどを。
 

*「姫」のつかない「踊子草」 (昨年4月末撮影)


 

因みに、「姫踊子草」に関しては、過去に以下の句を詠んでいる。


【関連句】
① 晴れるや姫踊子草も勢揃い
② 姫踊子草衣重ねて乱舞かな
③ さあ出番姫踊子草の揃う野路



 

①は、3月中旬に詠んだ句。冒頭の「晴れるや」は、ヘンデル作曲メサイアの「ハレルヤ・コーラス」などに出てくる「ハレルヤ」をもじったもの。

*「ハレル」=ほめたたえよ、「ヤ」=ヤハウェ(神)の略

②は、「姫踊子草」が群れ咲いているのを見て詠んだもの。色は些か地味だが、遠くから見ると、人気の女性アイドルグループが衣装を翻し乱舞しているようにも見える。
③は、いつもの散歩道の草地や石垣などの上に群れ咲いている様子を見て詠んだ句。名前の「踊子」にかけて、いよいよ出番が来たよと囁いた。


 

「姫踊子草」は、シソ科オドリコソウ属の越年草でヨーロッパ地方原産。明治時代に渡来し帰化した。花期は3月から6月。赤紫色の葉を何枚も重ね、その間から薄紅色の小さな花をいくつか咲かす。白花のものもある。


 

名前は、草の立ち姿が、踊子のように見えるから付けられたと思われがちだが、実のところ前掲の「姫」の付かない「踊子草」よりも小さいという意味でつけられた。その「踊子草」の名は、花の姿が、編み笠を被った踊り子のように見えることから付けられたとのこと。(前掲の写真参照)


 

「姫踊子草」を詠んだ句は残念ながらほとんどない。一方、「踊子草」で詠んだ句は結構あり、中には「姫踊子草」と混同して詠んだと思われるものもある。ただ、明確に判別できないので、ここでは取り上げないことにした。