節分の鬼滅の豆か樗の実
(せつぶんの きめつのまめか おうちのみ)


早いもので明日が節分だが、一日前の今日、その前日祭が行われるところも多い。近くにある「吉田神社」でも、夜に「追儺式(ついなしき)」が行われる。これは、疫鬼や疫神を払う儀式で俗に「鬼やらい」と呼ばれている。



追儺のひとつで、豆まきが行われるようになったのは室町時代以降で、中国の習俗が伝わったものとされているが、豆は「魔滅(まめ)」に通じ、無病息災を祈る意味があるといわれている。



本日の掲句は、その節分の豆と先日鴨川で見た「樗(おうち)の実」の取り合わせで詠んだ句である。写真を見ればお分かりいただけると思うが、葉を落とした後に残る薄黄色の実は、まるで空に撒かれた豆のようである。
*「樗」は「栴檀(せんだん)」の古名で「楝」とも書く。旧仮名遣いでは「あふち」。
*中七の「鬼滅」は、人気アニメ「鬼滅の刃(きめつのやいば)」からの引用。

尚、「樗(楝)の実」「栴檀の実」は秋の季語だが、本句では冬季に限定する「節分」を主たる季語とした。



因みに、「栴檀の実」「実栴檀」「樗の実」については、過去に以下の句を詠んでいる。季節のずれについては、句を詠んだ時(季節)の強い季語をおいて対応している。

【関連句】
① 冬日和空に弾ける実栴檀
② 節分の空に豆撒く樗の実
③ 春雨の滴に光る実栴檀




①は、植物園の一角に大きな「栴檀」が植わっていて、青空をバックに豆が弾けるて実を付けている様子を詠んだ。冬季に詠んだので、上五には冬の季語「冬日和」をおいた。*実栴檀とは栴檀の実のこと。
②は、節分の日に詠んだ句で、本日の掲句と着眼点はほぼ同じ。本句でも「節分」が主たる季語。
③は、3月初めに詠んだ句。栴檀の実が木に沢山残っていて、春雨に濡れて光っていた。主たる季語は「春雨」(春)。



「樗(楝)」こと「栴檀」は、センダン科センダン属の落葉高木。原産地は日本、東アジア。日本では関東以西に分布。花期は5月中旬から6月初旬。花は、薄紫色の小さな花で、紫色の雄しべが雌しべの周りを筒状に囲んでいるのが特徴。

*樗(栴檀)の花  (5月下旬に撮影)

*樗(栴檀)の花  (5月下旬に撮影)

 

10月頃に15mm程度の楕円形の実ができ、10~12月頃に黄褐色に熟す。落葉後も木に残り、その様が数珠のように見えることから「センダマ」(千珠)の意で「せんだん」という名前がつけられたとのこと。また、黄色で形が小鈴に似ていることから「金鈴子(きんれいし)」ともいう。

*11月初旬の頃は、まだ葉が多く実は黄緑色

 

尚、「栴檀は双葉より芳(かんば)し」という諺(ことわざ)があるが、ここで引用されている「栴檀」は、香木の白檀びゃくたん)を指し、今日取り上げている「栴檀」とは違う。



「樗(楝)の実」「栴檀の実」は秋の季語として詠まれた句が多い。今回は、特に「樗(楝)の実」で詠まれた句を選んで掲載した。

【樗(楝)の実の参考句】

縞馬は驚き易し樗の実 /高橋輝子
出屋敷や枝折に枯るる樗の実 /浜田酒堂
鵯にさへ多すぎるほど樗の実 /粟津松彩子
底抜けの空を埋めたる楝の実 /天野きく江    
正月の空に残りし楝の実 /大坪景章