入口を木蔦が隠すホテルかな
(  いりぐちを きづたがかくす ほてるかな  )


いきなりだが、「蔦」には「夏蔦(なつづた)」と「冬蔦(ふゆづた)」があることはご存知だろうか。かくいう自分もそのことを10数年前に知った。

 

秋になっても紅葉せず落葉しない「蔦」らしきものがあり、おかしいなと思い調べると「木蔦(きづた)」という植物だった。



この「木蔦」は常緑であり、夏や秋は通常の「蔦」と区別しがたいが、冬になると目立つので「冬蔦(ふゆづた)」という別名が付いたそうだ。

それとの対比で、紅葉し落葉する「蔦」は「夏蔦」と呼ばれるようになったとのこと。



ちょっとややこしいが、整理すると、単に紅葉し落葉する「蔦」は「夏蔦」といい、常緑のものは「木蔦」あるいは「冬蔦」という。



前書きが長くなったが、本日の掲句は、たまたま街中を散策していた時に、あるホテルらしき建物の入り口を、「木蔦」が葉で覆うように囲んでいるのを見て詠んだ句である。「木蔦」は冬の季語。

どんなホテルなのかは知らないが、誰かの隠れ家のように謎めいていた。



因みに、「木蔦」「冬蔦」に関しては、過去に以下の一句のみ詠んでいる。

冬蔦に埋まるままに喫茶店

この喫茶店も謎めいているが、客の出入りもなく休業中のようだった。多分コロナ禍の影響だろう。
埋まる(うずまる)



「木蔦」(冬蔦)は、ウコギ科キヅタ属の常緑つる性植物。原産地は日本、朝鮮半島南部、台湾。北海道南部から沖縄の各地に分布する。林縁や明るい林内に生じ、他の樹木や岩に付着しながら成長する。
*通常の「蔦」「夏蔦」はブドウ科ツタ属の植物。



葉は長さ2~7cmの肉厚な革質。表面は光沢のある濃緑色で裏面は淡い黄緑色。若木の葉は浅く裂けるが、古株の葉は菱形に近い卵形で裂け目はなく、先端が鈍く尖る。気根を出しながら育ち、最長で10m、太さ10cmにもなる。



花期は10~12月で、枝先に「八つ手」に似たボール状の花序(花の集り)を複数生じ、直径4~5ミリの小さな五弁花を咲かせる。果実は翌年の5~6月に黒く熟す。

「木蔦」という名前は、「蔦」のように蔓性なのと、年代を経ると茎が太い木になることから付けられたとのこと。



「冬蔦」「木蔦」を詠んだ句は少ないが、ネットでいくつか見つけたので、参考まで以下に掲載した。(再掲)

【冬蔦(木蔦)の参考句】
石崖に木蔦まつはる寒さかな /芥川龍之介
冬蔦のがんじがらめの木に鴉 /中丸まちえ
冬蔦や五箇山の豆腐は縄で吊る /蒲田玉枝
冬蔦や帯〆やわと結ぶ母 /榎本眞千
冬蔦や藪に埋もれし一里塚 /長須蜻蛉子


*通常の「蔦」=「夏蔦」の紅葉