飽食の果てにたわわに残る柿
( ほうしょくの はてに たわわに のこるかき )


クリスマスというイベントが終わり、人々の気持ちは、いよいよ年末から新年に向かう。そんなおり、近辺を散歩すると時々見かけるのが、沢山の実が残ったままになっている「柿の木」である。



多分、渋柿だと思うが、昔であれば長い竹竿などで収穫し、干し柿などにしたものだが、今はそれをする人がいなくなったのだろう。もっとも、無理してとらずとも、お金を出せば、産地直送で本場の美味しいものが手に入る。



本日の掲句は、そんな情景を見て詠んだ句。実のところ、掲句は、かつて詠んだ以下の句を別の角度から捉えて詠んだ句である。
*「残る柿」とは冬になっても収穫されず残った柿の実のこと。「残り柿」ともいい、冬の季語になっている。

残り柿たわわに揺るる瑠璃の空
鈍色の空にたわわに残る柿




これらは、「残る(り)柿」を「瑠璃(るり)の空」と「鈍色(にびいろ)の空」をバックに詠み分けたものだが、今回はその背景(原因)を想像して詠んだ。
*鈍色:「にぶいろ」ともいい、濃い灰色のこと。現在は「グレー」「灰色」「鼠色」などがよく使われる。



上五の「飽食」とは、「十分に食べて満ち足りること」「食物に不自由のないこと」をいう。昔なら、「柿」が残されたままになっているのを見てもったいないと思うだろうが、今は、苦労して採って、皮をむいて「干し柿」にするという発想すら思い浮かばないだろう。



冬の季語では他に「木守柿(きもりがき、こもりがき)」がある。これは、収穫を終えた柿の木に一つだけ残した「柿の実」のことで、豊かな果実を与えてくれた木、自然、神に感謝し、来年の実りを祈念するために残す風習だそうだ。ただ近辺では、ほとんど見かけなくなった。




「残る柿」「残り柿」に関しては、上記の他にも以下の句を読んでいる。

【関連句】
① 落柿舎の茅葺の屋根残り柿
② 残り柿雀が一羽来ておりぬ




①は、11月末に京都嵯峨野にある向井去来の庵「落柿舎(らくししゃ)」を訪れた時に詠んだ句。去来は、芭蕉十哲の一人。
②は、柿の実が残された木で雀が啄んでいるのを見て詠んだ句。雀にとっても、それほど上等な餌でないのか、暫くしてどこかへ飛び立っていった。



「柿」は植物分類上では、「柿の木(かきのき)」と言われ、カキノキ科カキノキ属に属する落葉樹である。原産地は東アジアで、日本には弥生時代の頃に渡来したとのこと。

熟した果実は食用に供され、幹は家具材として用いられ、葉は茶の代わりとして飲まれ、柿渋は防腐剤として用いられる。それ故、柿は古くより非常に重宝されてきた。



今回は記事が長くなったので、「残る柿」「残り柿」の参考句の掲載は割愛する。