花よりも実の麗しき臭木かな
( はなよりも みのうるわしき くさぎかな )


今日取り上げる「臭木(くさぎ)」は、夏から秋にかけて花を咲かす花木だが、花の咲き方がやや乱雑であり、色も地味なので知らない人も多いのではないかと思う。

しかし、道端や川辺などを注意深く見れば、大抵何本か植えてあり、見過ごされている可能性が高い。


*これが臭木の実。花ではない。



その「臭木」の花は7月末頃から咲き始め、既に散ってしまっているところも多いと思うが、今は花よりもはるかに美しい果実を見ることができる。

本日の掲句は、そのことをそのまま詠んだ句だが、その評価はさておき、どんな実なのか掲載した写真でご確認いただきたい。「臭木」は、その花も実も秋の季語になっている。



以下の句は、その果実を初めて見た時に詠んだ句である。

ブローチにおひとついかが臭木の実

果実の瑠璃色と開いた萼の紅紫色のコントラストが美しく、ブローチに良いのではと思って詠んだ。



ところで、この花木がなぜ「臭木」、すなわち「臭い木」と言われるのかというと、枝や葉を傷つけると独特の臭い(薬品臭)を発する事からだそうだ。

しかし、実際に葉っぱを摘んで臭いを嗅いでみたがそれほどしない。多分大掛かりに木の剪定や伐採などをした時などに相当きつい臭いがするのだろう。一方、花そのものの香りの方は悪くなく、むしろほの甘い感じがする。



因みに、「臭木の実」に関しては、先に上げた句しか詠んでいないが、「臭木の花」に関しては、過去に以下の句を詠んでいる。

【関連句】
① 臭木とは言えど蝶には甘からん
② 廃屋に形見の臭木咲き満つる       
③ 寄り添える屁糞葛と花臭木


*臭木の花

 

*臭木の花


①は、「臭木」の花を見ていた時に、黒い揚羽蝶が飛んできて、花から花へと渡りながら、夢中になって吸蜜するのを見て詠んだ句。花は仄かに甘い匂いがする。
②は、ある廃屋の敷地に形見のように「臭木」が植えてあって、今まさに満開になっているのを見て詠んだ句である。
③は、大きな「臭木」に「屁糞葛(へくそかずら)」が絡まりながら花を咲かせているのを見て詠んだ句。まさに「臭い仲」の取り合わせ。



「臭木」は、シソ(クマツヅラ)科クサギ属の落葉小高木。日本全国のほか朝鮮、中国などの山野の林縁や河岸などに自生する。

 



花期は7月~9月。花は、下方が細長い筒状で、上方が平たく五つに分かれる。花弁は白で、萼は緑色から次第に赤くなる。 昼間は揚羽蝶が、日が暮れると雀蛾などが吸蜜に訪れるとのこと。

果実は9月~11月頃に付けるが、何故あんな形、色合いになったのかは不明。



「臭木の実」を詠んだ句はあまりないが、以下には、ネットで見つけた句をいくつか掲載した。尚、俳句では「臭」を嫌い、漢名「海州常山」からの引用で「常山木」という当て字で表記されることもある。

【臭木の実の参考句】
旧道の石垣古りし臭木の実 /古川芋蔓
臭木の実手籠に摘める染物師 /阿部月山子
臭木の実鵯の饗宴ゆるしをり /鈴木しげを
美女谷や髪に飾りて常山木の実 /嶋田麻紀
林中の木椅子の湿り臭木の実 /高橋さえ子