くるくると回る水車や秋海棠
( くるくると まわるすいしゃや しゅうかいどう )


先日行った植物園には、水車小屋の模型が設置されているところがあって、年中休まず回っている。先日行った時は、設置されている小川の畔(ほとり)に「秋海棠(しゅかいどう)」が群生し花を咲かせていた。


 

本日の掲句は、その様子がいかにも秋らしい風情を醸し出していると思い詠んだ句だが、水車小屋の入り口付近の板に書かれた以下の歌をヒントにした。「秋海棠」は秋の季語。

奥山に ひとり米搗く 水車 

誰をまつやら くるくると

*米搗く(こめつく)  *水車(みずぐるま) 




歌の最後の「くるくると」が、水車が回る様子を示すと同時に、その前節の「誰をまつやら」にかけて「来る来る」と対応しているのが何とも面白い。尚、当初は以下の句も考えたが、色気がないので却下した。


くるくると回る水車や秋来る


 

ところで、上掲の歌についてだが、その音数は「五七五七五」になっている。短歌なら「五七五七七」になるはずなのだが、そうなっていない。

そこで、五年ほど前に、この歌は何から引用されたのか調べたことがある。すると、「白川しょっしょ」「越中おわら節」など様々な民謡で歌われていることが分かった。また、それらのほとんどが、以下のように歌われていた。


 

奥山で 一人米搗く あの水車 

誰を待つやら くるくると

すなわち、3節が「あの水車」で七音になっており、この歌はもともと「五七七七五」の音数で歌われていたようだ。


 

特に詳しいわけではないが、民謡や都都逸(どどいつ)などは「「七七七五」の音数で作られることが多い。例えば以下のように。

佐渡へ佐渡へと 草木もなびく 
佐渡は居よいか 住みよいか (佐渡おけさ)


恋に焦がれて 鳴く蝉よりも 
鳴かぬ蛍が 身を焦がす(都都逸)



 

更に、「七七七五」の最初に五文字を加えたものを五字冠り(かぶり)というそうで、どうやら、上掲の歌は、「五七七七五」という形式に従ったもののようだ。例えばこんな歌もある。

あの人の どこがいいかと 訊ねる人に 
どこが悪いと 問いかえす (五字冠り都都逸)



 

話は戻って、「秋海棠」に関しては、過去に以下の句を詠んでいる。


【関連句】
① 木漏れ日の沢に清しき秋海棠
② せせらぎに恥じらうごとく秋海棠
③ アパートの隅にさみしき秋海棠


*以下の写真は植物園以外で撮ったもの。

 

①は、あるお寺の庭園の小川に咲いていた「秋海棠」を見て詠んだ句。小川を沢に見立てて詠んだ。*清しき(すがしき):さわやかで気持ちが良い。
②は、数年前、大原の里の川沿いに「秋海棠」の花が群生し、多くの花を咲かせているのを見て詠んだ句。中七の「恥じらうごとく」は見た時の印象。
③は、ある古アパートの片隅で、「秋海棠」の花が幾つかばらぱらと咲いているのを見て詠んだ句。


 

「秋海棠」は、シュウカイドウ科シュウカイドウ属(ベゴニア属)の多年生球根植物。中国原産で、江戸時代初期に園芸用として渡来。

花期は8月~10月。雌雄異花同株で、雄花は上方に正面に向いて開き、中央に黄色く球状に集まった雄蘂が目立つ。雌花は下方に垂れ下がった状態で下方に向いて開く。花色は薄紅色と白色。

「秋海棠」を詠んだ句はままあるが、記事が長くなったので、参考句は割愛する。