アパートの裏に形見の桐の花
( あぱーとの うらにかたみの きりのはな )


今日から5月が始まる。新年になってからもう5ヶ月たったのかと驚くばかりだが、数日後の5月6日には立夏(りっか)を迎える。この日より暦の上では夏になるといわれるが、植物の世界では、もうすでに夏の季語に分類されるものが次々と開花している。


 

その一つが今日取り上げる「桐(きり)」の花であり、2週間も前から咲き始めている。できれば、立夏が過ぎてから取り上げようと思っていたが、数日前に確認すると萎れてきている花も多くなってきており、やむをえず今日取り上げることにした。



本日の掲句は、その花があるアパートの裏手に1株だけポツンと植えてあるのを見て詠んだ句である。アパートの所有者に確認した訳ではないが、多分、建物ができる前から植えてあって、伐らずに残されたものではないかと思う。そのことを想定して「形見」を使った。「桐の花」は「花桐(はなきり)」ともいい夏の季語。



ところで「桐」は、高級家具で知られる「桐たんす」などの素材として名前はよく知られているが、どんな花を咲かすかを知らない人も多いのではないだろうか。かくいう自分もその花を初めて見たのは、数年前のことである。その時に、咄嗟(とっさ)に詠んだのが以下の句である。

これっきりこれっきりですか桐の花



これは、山口百恵さんが歌った「横須賀ストーリー」の歌詞を思い出して詠んだ戯れ句(ざれく)である。「これっきり」には、「これが桐?」という意味とともに「桐の木はこれしかないの」「桐の花はこれでおしまいなの」という意味合いが含まれる。



「桐」は、キリ科(以前はゴマノハグサ科、あるいはノウゼンカズラ科)キリ属の落葉広葉樹。原産地は中国とされ、日本には飛鳥時代に渡来。花期は4月~6月。枝先に大きな円錐花序を直立させ、花の長さ5~6cmの淡い紫色の花を多数つける。花後には先の尖った卵形の果実ができる。

*桐の果実


「桐」は、国内木材では最も軽く、湿気を通さず、割れや狂いが少ないという特徴があり、良質な木材として箪笥、箏(こと)、下駄などの材料に用いられてきた。福島県の「会津桐」、岩手県の「南部桐」などが有名。



また、伝統的に神聖な木とされ、美しい花と葉が意匠化されて家紋(桐花紋)に用いられている。天皇家では、「菊の御紋」に次ぐ高貴な紋章とされている。また、「日本国政府の紋章」として大礼服や各種勲章の意匠にも取り入れられている。

 

更に、「桐の花」の格式が高いことから、その花姿は500円玉の表面に描かれている。

*余談だが五百円硬貨にも裏表があり、表面が「桐」が描かれている面であることを今回初めて知った。

 

*五七の桐 (花の数が五七五になっている)

 

「桐の花」「花桐」を詠んだ句は多く、以下には、ネット見つけた句からいくつか選んで掲載した。(過去に掲載したものを除く。)


【桐の花の参考句】
西方に入る日の翳の桐の花 /山口誓子
花桐や手提を鳴らし少女過ぐ /角川源義
なつかしき遠さに雨の桐の花 /行方克巳
花桐に二階の人の午寝かな /原石鼎
山峡の底に街道桐の花 /平野ひろし