大寒や熊笹茂る獣道
( だいかんや くまざさしげる けものみち )
今日は、二十四節気の「大寒(だいかん)」に当たる日であり、「寒の中日」ともいわれている。また、「立春(りっしゅん)」の前日までの期間を指し、一年で最も寒さが厳しくなる時期だとされている。
本日の掲句は、その「大寒」と「熊笹(くまざさ)」の取り合わせで詠んだ句である。「熊笹」は植物園だけでなく、公園や道端などで時々見かけるが、今回は寒々とした山間の獣道(けものみち)をイメージして詠んだ。
できるだけ現場を見て詠むのが自分の作風だが、掲句は、いくらか想像を交えて詠んでみた。写真の方は、植物園や京都御苑で撮ったものである。
尚、本句では「大寒」が冬の季語。「熊笹」の方は季語になっていない。
ところで、「くまざさ」の名前の由来は、冬になると緑色の葉の弱い部分が枯れ、まわりに白い隈(くま)ができるからだと言われている。だから正式な漢字表記は「隈笹」である。それが「熊笹」と書かれるようになったのは、野生の熊が冬眠前後に、この葉をたくさん食べることによるとのこと。
因みに、「熊笹」「隈笹」に関しては、他の季語との取り合わせで過去に以下の句を詠んでいる。
【関連句】
① 熊笹に落葉降り積む杣の道
② 熊猫も食べる熊笹霜の道
③ 熊笹に残る雪ある山路かな
①は、「熊笹」に沢山の落葉が降りかかっているのを見て詠んだ句。「杣(そま)」とは、「古代・中世の日本で国家・権門が所有した山林(杣山)」のことだが、転じてそこで働いている人を言う。季語:落葉(冬)。
②は、「熊猫(くまねこ)」との取り合わせで詠んだ句である。「熊猫」とは中国名の「パンダ」のこと。季語:霜(冬)。
③は、春のなっても雪が「熊笹」に降り残っている景を詠んだ句。季語:残る雪(春)。
「熊笹(隈笹)」は、ササ類(イネ科ササ属)の植物である。地下茎で広がり、一帯にぎっしりと葉を繁らせる。丈は1.5mほどで、葉は大きいもので長さ20~25cm、幅4~5cmほどになる。
余談だが、旧飛騨国(現岐阜県北部)では、熊(隈)笹の実のことを「野麦」といい、、凶作の年にはその実を食べて飢えをしのいだといわれている。著書「女工哀史 あゝ野麦峠」の「野麦峠」という地名は、このことに由来するとのこと。
「熊(隈)笹」は季語でないので、ほとんどが他の季語との取り合わせで詠まれている。本ブログでも、これまでに二十句以上紹介したことがあるが、以下には、その中から特に好むものを選んで再掲した。
*俳句では、「隈笹」でなく「熊笹」と表記されることが圧倒的に多い。
【熊(隈)笹の参考句】
熊笹や湯壷に落つる斑れ雪 /桂信子
*季語:斑れ雪(はだれゆき)(春)
筒鳥や熊笹覆ふ行者道 /岡田日郎
*季語:筒鳥(つつどり)(夏)
春寒し人熊笹の中を行く /前田普羅
*季語:春寒し(春)
滝の風崖の熊笹駆け昇る /坂部正登
*季語:滝(夏)
熊笹を風駆けのぼり五月来る /村上つね代
*季語:五月(夏)