青天にしゃりんしゃりんと栃の花
( せいてんに しゃりんしゃりんと とちのはな )


今日取り上げる「栃の木(とちのき)」は、名前をどこかで聞いたことがあるという人も多いと思うが、その花を見たという人は少ないように思う。というのは、高木で樹高が20mにもなるものもあり、そこそこ土地が広い植物園や公園、校庭などでないと植栽されないからである。


 

本日の掲句は、その「栃の木」の花を先日行った植物園で見て詠んだ句である。ただ、そこで見たのは紅花を咲かす「紅花栃の木(べにばなとちのき)」である。

*一般的なものの花色は白色。(最後尾の写真参照)


 

その花の形が巫女が持つ神楽鈴(かぐらすず)に似ているので、中七は「しゃりんしゃりん」とした。実際に音がした訳ではないが。また、「栃の木」の花は、俳句では「栃の花(とちのはな)」と言い、夏の季語になっている。「橡の花」とも書く。

*栃(橡)の実」は秋の季語。


 

ところで、俳句の音数(字数)は五七五の十七音なので、同じような意味の言葉がある時どれを使うか迷うことがある。掲句について言えば、上五を当初「青空」としていたが、少し平凡なのでもっと良い類義語がないか調べたところ以下のものがあった。


 

「蒼穹(そうきゅう)」 「碧落(へきらく)」 「蒼昊(そうこう)」 

「蒼天(そうてん)」 「碧空(へきくう)」 「蒼空(そうくう)」

「碧天(へきてん)」 「青天(せいてん)」


 

この内の「蒼穹」を使うことも考えたが、普段使わない言葉を使うのは少々気取りすぎと思い、「青空」をちょっとだけ変えた「青天」を使うことにした。ただ、どれを選ぶかは句意をよく考え、最終的には、その時の気分で決めるしかないと思う。


 

因みに、「栃の花」に関しては、過去には以下の一句だけ詠んでいる。

マロニエの見目よき花に見蕩れたり

「マロニエ」とは「西洋栃の木」のことだが、俳句では、この名前で詠まれることもある。
*見蕩れる(みとれる):うっとりして見る。われを忘れて見入る。


 

「紅花栃の木」は、トチノキ科トチノキ属の落葉高木。街路樹として植えられることもある。花期は4月~5月で、花は神楽鈴のように盛り上がって咲く。花色は薄紅色(ピンク)。果実(種子)はトチ餅、トチ団子の材料として使用される。

葉は、各々20cmから30cmの小葉が5枚から7枚向かい合って生える大型の手のひら状の複葉。


 

「栃(橡)の花」を詠んだ句はままあり、以下にはネットで見つけた句をいくつか参考まで掲載した。(過去に掲載したものを除く。)

【栃の花の参考句】
仰ぎ見る樹齢いくばくぞ栃の花 (杉田久女)
橡の花初めてまみゆごとく見る (松村蒼石)
遠谷へ雲かげ急ぐ栃の花 (河野南畦)
橡咲いて一天蒼さばかりなる (渡邊水巴)
栃咲くや少女あふれるケーキ店 (松本照子)


*通常の栃の花 (白色)