大河原覆う葉裏に葛の花
( おおがわら おおう はうらに くずのはな )


昨日は朝から晴れていたので、久しぶりに京都の名所の一つである嵯峨嵐山に行ってきた。緊急事態宣言下であり、やはり観光客はまばらだった。ただ、今回の主目的は、寺社や竹林を巡るのでなく、桂川の河川敷を散策すること。


 

こちらは、市内の中心部を流れる鴨川とは違い、非常に広大で様々な野草が自然のままに繁茂している。行く時期より、生育している植物も違うが、今回は「葛(くず)」が河原一面を覆っていた。


 

その繁茂ぶりには、先ずもってあっけにとあられたが、暫く歩くと大きな葉の裏に赤紫の花が咲いているのが見えた。更に上方に目をやると、幾つもの花が見えた。

本日の掲句は、その光景を詠んだ句だが、これだけ多くの花に出会ったのは初めてであり、来たタイミング良かったと思った。尚、「葛」「葛の花」は秋の七草の一つであり、秋の季語になっている。但し、「葛餅」は夏、「葛湯」は冬の季語になる。


 

ところで、秋の七草にはどんな花があるか。ご承知と思うが、参考まで掲載すると以下の通り。


【秋の七草】
「萩(はぎ)」 「尾花(おばな)」 「葛(くず)」 「撫子(なでしこ)」
「女郎花(おみなえし)」 「藤袴(ふじばかま)」 「桔梗(ききょう)」


この内、「撫子」「女郎花」「桔梗」については既に取り上げた。「葛」は4番目になる。


 

因みに、「葛」に関しては、過去に以下の句を詠んでいる。


【関連句】
① 葉隠れの花見つけたり葛の原
② 廃れたる湖畔の宿や葛の花
③ くずくずと言えどお役に立ってます



 

①は、川岸に降りて繁茂している葛の大きな葉をめくり、漸く数輪の花を見つけた時のことを詠んだもの。
②は、琵琶湖の北端にある余呉湖畔で、廃墟になっている国民宿舎にかけて詠んだ句。その近くで丁度「葛の花」が何輪か咲いていた。
③は、「くず」というと「屑」を連想するかもしれないが、お菓子(葛餅)や生薬(葛根湯)、更には布(葛布)の材料にもなっており、結構役に立っていると詠んだもの。


 

「葛」は、マメ科クズ属のつる性多年草で、原産地は日本、中国、朝鮮半島など。蔓(つる)を他のものに巻きつけ、10m以上にも生長するといわれている。花期は8月~9月。花は穂状に立ち上がり、芳香を発する。花色は、白色、淡桃色など。


 

和名「くず」は、かつて大和国(現:奈良県)の国栖(くず)が葛粉の産地であったことに由来する。漢字の「葛」は、中国名「葛藤」の「葛」の字があてられたもの。別名に「裏見草(うらみぐさ)」があるが、これは葉が風にひるがえると裏の白さが目立つことからつけられたそうだ。平安時代には、それを「恨み」に掛けて和歌が多く詠まれている。


 

古くからある花のせいか、「葛」「葛の花」を詠んだ句は多く、これまでブログで30句ほど掲載したが、その中から特に好むものを選び以下に再掲した。


【葛の参考句】
山路に石段ありて葛の花(高浜虚子)
あなたなる夜雨の葛のあなたかな(芝不器男)
葛かけて黒部の端山そゝり立つ (前田普羅)
花葛にがんじがらめの丸太橋 (長谷川秋子)
葛の花トンネル口は風に満ち (鷹羽狩行)


*河原を覆う葛の葉