檜扇や巡行もなく京の町
( ひおうぎや じゅんこうもなく きょうのまち )


今日は、京都の町中でも時々見かける「檜扇(ひおうぎ)」を取り上げたい。

 


 

先日(7月8日)本ブログに掲載した「姫檜扇水仙(ひめひおうぎずいせん)」の記事でも述べたが、「檜扇」とは、主に宮中で使う「檜(ひのき)の薄い白板をとじ合わせた扇」のこと。これに、葉の形が似ているということで、この草花にその名が付けられた。

 

*檜扇 (ネットより)

 

この「檜扇」という植物は、平安時代に編纂された神話「古語拾遺」に厄除けに使われたという記載があり、いつの頃からか疫病退散の祇園祭と結びつけられ、祭りの期間中に床の間や玄関に飾られるようになったそうだ。




本日の掲句は、そんなことも踏まえて詠んだ句である。中七の「巡行」は、祇園祭のメインイベントである「山鉾巡行(やまぼこじゅんこう)」のことで、今年はコロナ禍で中止になった。「檜扇」は「桧扇」「射干」とも書き夏の季語。

 


因みに、檜扇については、過去に以下の句を詠んでいる。


【関連句】
① 檜扇の花揺れてあり京の坂
② 高山の陣屋にゆかし檜扇の花
③ 檜扇の花は雅に鄙の道 

 


 

①は、京都の清水寺に向かう三年坂の店先で、鉢植えの檜扇が花を咲かせているのを見て詠んだ句。
②は、飛騨高山に旅行に行った時、江戸時代の御役所「高山陣屋」跡を訪れ、その門前に咲いていた「檜扇」の花を見て詠んだ句。
③は、植物園の生態園で詠んだ句。「檜扇」の雅(みやび)なイメージに鄙(ひな)を対比させて詠んだ。

 

 

「檜扇(桧扇とも)」は、アヤメ科ヒオウギ属の多年草。原産地は日本、中国など。7月~8月に、橙(オレンジ)色で暗赤色の斑点のある花を咲かせる。花弁は6枚に見えるが外側にある3枚は外花被片で萼にあたる。内側にある3枚が内花被片で本来の花弁。


漢名は「射干」で、これを当て字として「ひおうぎ」と読ますことがある。ただ、厄介なのは、葉が似ていることから、誤解により「しゃが」の花に当てられたこと。

 


 

そのため、俳句では、「ひおうぎ」を「射干」「檜扇」と表記し、「しゃが」を「著莪」としているようである。(異説があるようであればご指摘いただきたい。)


尚、種子は黒色で「射干玉(ぬばたま)」 「烏羽玉(うばたま)」といい、和歌では「黒」「夜」「暗き」などにかかる枕詞にもなっている。その関連で別名に「烏扇(からすおうぎ)」がある。

 

*檜扇の果実:ぬばたま


 

「檜扇」を詠んだ句は少ないが、「射干」で詠まれた句は結構ある。以下には、ネットで見つけたものをいくつか選定し掲載した。(過去に掲載したものを除く。)


【檜扇(射干)の参考句】
射干の炎々燃ゆる芝の中 (石塚友二)
射干に煉瓦造りの天主堂 (清崎敏郎)
射干や家を毀ちて家が建ち (高澤良一)
射干にその花色の蝶の来る (橋爪靖人)
射干をつかんでは下げ黒揚羽 (川崎展宏)