沙羅の花あまた寺苑に落ちてあり
( さらのはな あまた じえんに おちてあり )


今日取り上げる「沙羅双樹(さらそうじゅ)」は、あまり知られてないかもしれないが、名前はどこかで聞いたことがあると言う方は多いと思う。

 


 

実は、この植物、学校でも習った「平家物語」の以下の一節に出てきており、それが何となく記憶に残っているためだろう。


祗園精舎の鐘の声 諸行無常の響きあり 
沙羅双樹の花の色 盛者必衰の理をあらはす


「沙羅双樹」の名は、仏教の開祖である釈迦(しゃか)が入滅した時に、2本の沙羅樹が近くに植えられたことに因んで付けられたとされている。

 

 

ややこしいのは、この植物が寒さに弱く日本では育たなかったので、葉が似ているということから代用として現在の植物が使われたこと。花形を見れば椿の花によく似ており、夏に咲くので「夏椿(なつづばき)」とも呼ばれている。

 


 

その「沙羅双樹」の木が、あるお寺の庭に植えてあって、この時期に毎年花を咲かす。今年はどうかと今朝見に行ったところ、丁度見ごろになっていた。

 


 

本日の掲句は、その「沙羅双樹」が、沢山の花を樹下に落としているのを見て詠んだ句である。上五の「沙羅」は「沙羅双樹」を簡略化した呼び名で「しゃら」あるいは「さら」と読む。「沙羅の花」は夏の季語。

 


 

因みに、「沙羅の花」に関しては、過去に以下の句を詠んでいる。


【関連句】
① 世の習い諸行無常の沙羅の花
② 光陰や侘助失せて沙羅の咲く

 


 

①は、前述の平家物語の一節を思い出して詠んだ句。
②は、冬椿の一種でもある「侘助(わびすけ)」と関連づけて詠んだ句。もう年初より半年ほど経ったのかと時の経過の早さを実感した。

 


 

日本の「沙羅双樹」こと「夏椿」は、ツバキ科ナツツバキ属の落葉高木。原産地は日本及び朝鮮半島。仏教の縁で寺によく植えられている。


花期は6月~7月。白い花びらに黄色の蕊をもつ。花の寿命はわずか1日。朝に咲き、夜には椿と同様、花全体がそのまま落ちる。

 


 

「沙羅の花」「夏椿」を詠んだ句は意外と多く、以下には、その中からいくつか選んで掲載した。(過去に掲載したものを除く。)


【沙羅の花の参考句】
沙羅の花捨身の落花惜しみなし (石田波郷)
木曾殿に一日花の沙羅白し (有働亨)
沙羅の花波間に蟹の沈むかな (岸本尚毅)
沙羅の花耀くは風あるらしき (高木雨路)
飛石のほどよき湿り沙羅の花 (西畑幸子)