大橋の袂は明き定家葛
( おおはしの たもとはあかき ていかかずら )


コロナ禍で遠出を自粛していたが、先週の土曜日は、久しぶりに京都市の繁華街まで行ってきた。人出は、観光客が少ないためか、通常の半分以下だが、だんだんと戻ってきている感じがする。


さて今回は、中心部まで行く途中、鴨川に架かる三条大橋を渡ったが、その袂に「定家葛(ていかかずら)」の花が満開になっているのに出会った。

 

 

毎年見ているのだが、これほど見事に咲いているのを見たのは初めてである。どれくらい見事なのかは、あれこれ説明するよりも掲載した写真を見ていただいた方が良いだろう。


兎に角、三条大橋の袂付近の岸辺に黄色の小花で作られたタペストリーが垂れ下がっている感じだった。
*タペストリー(tapestry):壁掛けなどに使われる室内装飾用の織物の一種。

 

 

本日の掲句は、その様子を詠んだもの。白色、黄色の小花が明るい雰囲気を醸し出していた。「定家葛」の花は夏の季語。

 

 

因みに、「定家葛」に関しては、過去に以下の句を詠んでいる。


【関連句】
① 歌にきく定家かずらの香しき 
*香しき(かぐわしき)
② 歌碑蔽う定家葛の川辺かな 


 

①は、この植物の名前が歌人藤原定家に関する伝説に由来することを知り詠んだ句。(伝説の詳細については後述する) *「かずら」は旧仮名遣いでは「かづら」。
②は、本日の掲句と同じ場面で詠んだ句だが、その時は、その近くにある歌碑に注目して詠んだ。

 

 

「定家葛」は、キョウチクトウ科テイカカズラ属の蔓性常緑低木。花期は5月初~9月末までで、7月頃一旦花は途絶えるが、その後新しい枝が伸びてきてまた開花する。


花は、はじめは白く、次第に淡黄色になり、ジャスミンに似た芳香を放つ。観葉植物の「初雪葛(はつゆきかずら)」は、「定家葛」の斑入り品種。

 

 

名前は、式子内親王(平安時代の後白河法皇の第三皇女)を愛した歌人藤原定家(ふじわらていか)が、死後も彼女が忘れられず、この植物に生まれ変わって彼女の墓に絡みついたという伝説(謡曲:定家)に基づくものだそうだ。

 

 

藤原定家は鎌倉時代初期の公家の歌人で、「新古今和歌集」「新勅撰和歌集」「小倉百人一首」を撰進した人として有名である。以下は藤原定家が詠んだ和歌。


見渡せば花も紅葉もなかりけり浦の苫屋の秋の夕暮れ

 

 

「定家葛」を詠んだ句は少ない。以下には、ネットで見つけた句をいくつか参考まで掲載した。(過去に掲載した句は除く)


【定家葛の参考句】
定家かづら貧乏かづら相揺るる(渡邊千枝子)
水の上定家葛の種吹かれ(飴山實)
定家かづら山気少しく動きけり(永方裕子)
催合井戸残るに定家葛咲く(詫摩まつ子)
名を知りて定家葛のその下に(山崎あきら)