一斉に靡き乱るる芒の穂

( いっせいに なびきみだるる すすきのほ )


先日、賀茂川(鴨川の上流)の土手を久しぶりに歩いた時、菊芋の花が咲いていたことを記事で紹介したが、その他にも、いろいろな花が咲いていた。その一つが、今日取り上げる「芒(すすき)」である。

 


 

「芒」と言えば、比較的年配の人なら、「船頭小唄」や「昭和枯すすき」などの唄の影響で、「枯芒(かれすすき)」を思い出す人も多いと思う。

 

しかし、この時期の「芒」は、尾花(おばな)とも呼ばれ、秋の七草の一つに数えらている。確かに、長い茎を伸びし、刷毛のよう花穂を揺らしている姿は絵になる趣がある。

 


 

本日の掲句は、その「芒」が突風に煽られて一斉に川下に靡き、風が止むと穂先が絡まり乱れる様子を見て詠んだ句。


「芒の穂」は「穂芒」「花芒」「尾花」とも言い秋の季語。尚、「枯芒」とすると冬の季語、「青芒」は夏の季語、「末黒の芒」は春の季語となる。

 

 

因みに、「芒」に関連した句は、過去に十数句詠んでいるが、比較的好んでいるものを以下に何句か再掲したい。


【関連句】
① 穂芒の飄々として逆らわず
② 山路にて月待ちわぶる芒かな
③ シルバーの輝き増せり芒原

 


 

①は、ある川岸で、「芒」が断続的に吹く風に身を任せて揺れている様子を見て詠んだもの。 *飄々(ひょうひょう):風に吹かれてひらひらと向きを変えるさま。
②は、山歩きをした時に道端の芒を見て詠んだ句。少し赤味を帯びた芒だったが、皆上を向いていて中秋の名月を待ちわびる風情だった。
③は、鴨川の河原で白銀の芒を見て詠んだ句。人間の高齢者を表す「シルバー」にかけて詠んでみた。


 

「芒」は、イネ科ススキ属の多年草。原産地は日本、中国などの東アジア。夏に青々と葉が茂り、秋になると茎を真っ直ぐに伸ばし、先端に黄褐色あるいは紫がかった褐色の花穂を出す。晩秋になると花穂は白っぽくなり、更に進むと枯れ色になる。

 


 

「芒」は、なぜ「すすき」というのか。有力な説としては、「すす」が、葉がまっすぐにすくすく生い立つことを表わし、「き」は芽が萌え出でる意味の 「萌(き)」で、「すすき」となったという説がある。(異説あり)


漢字では、「芒」の他に「薄」と書くが、「芒」は中国の表記で、「薄」は和製漢字で「くさむら」の字義から使われたとのこと。また、尾花(「おばな)という呼び方は、花穂の形を動物(鶏、狐など)の尾に見立てたもの。

 


 

芒(薄)を詠んだ句は非常に多く、これまで何句も紹介したことがあるが、以下には、特に「芒の穂」「穂芒」で詠んだものを選んで掲載した。 *「芒」は「薄」とも書く。


【芒の穂、穂芒の参考句】
稲妻や顔のところが薄の穂 (松尾芭蕉)
穂芒やおれがつぶりもともそよぎ (小林一茶)
*つぶり:あたま。かしら。
穂芒にとまるでも無き蜻蛉かな (高浜虚子)
穂芒の暮れてぞひくき渡り鳥 (水原秋櫻子)
穂芒や村が一つになびき居る (永田耕一郎)