鬼百合は寂しがり屋の百合ならん
 ( おにゆりは さびしがりやの ゆりならん )
 
昨日は百合の一種である山百合を取り上げたが、今日も百合の仲間の「鬼百合(おにゆり)」を取り上げたい。この百合は、街中の道端などでも自生し、近辺でもよく見かける。

以前にも記したが、この百合を見ると、いつも思い出す童話に「泣いた赤鬼」がある。人間と友達になりたくてたまらなかった赤鬼が、友達である青鬼の犠牲的な計らいで人間と仲良くなるという、とても切ない話。
 
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本日の掲句は、それを思い出しながら、ひょっとして鬼百合も赤鬼と同じで寂しがり屋だから、人が沢山いるところで咲くのだろうと詠んだもの。鬼百合は夏の季語。
*【ならん】 断定的な推量の意を表す。…であろう。…だろう。

実は、同じような着想で、過去にも以下のような句を詠んでいる。

山里に泣いた赤鬼百合の揺る
人恋いの鬼百合揺るる川辺かな

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また、別の着想では以下の句を詠んでいる。

【関連句】
① 百合なれど鬼と呼ばれる定めとは
② 鬼百合が熟女に変わる逢魔時
③ 鬼百合やちょうちん横丁縄のれん

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①は、百合は美しい女性を形容する時に使われるのに、「鬼」と言われるなんて何という定め(運命)なのだろうと憐れんで詠んだ句。
②は、鬼百合という花の奇異な名前と逢魔時(おうまどき)の怪しげな雰囲気を結びつけて作ったイメージの句。
*逢魔時=夕暮れ時
③は、赤い鬼百合が俯きかげんに、いくつも咲いている姿を、居酒屋の赤ちょうちんが並ぶ横町に重ねて詠んだもの。

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「鬼百合」は、ユリ科ユリ属の植物。原産地は、日本、中国、朝鮮など。花期は7月から8月。花弁は赤色(オレンジ色)で、黒紫色の斑点があり、強く反り返る。

名前は、その花姿が赤鬼に似ていることからつけられたとのこと。ちょっと可愛そうな名前だが、そのお陰で名前がよく知られているように思う。

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尚、この鬼百合の変異種で「黄金鬼百合(おうごんおにゆり)」がある。長崎県対馬だけに自生していたが、今は愛好家により栽培されているのが現状。それを植物園で見て詠んだのが以下の句。

黄金に染むも鬼百合鬼は鬼
 
*黄金鬼百合
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更に、近縁種で「鹿の子百合(かのこゆり)」がある。花の形は鬼百合と変わらないのだが、花色がピンク色で名前も愛らしい。それに関して詠んだのが以下の句。
*「鹿の子」とは、子鹿の背の白いまだらに似た絞り染めのこと。

鬼百合もピンクを着れば鹿の子百合
 

*鹿の子百合
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「鬼百合」を詠んだ句はままあり、以下にはネットで見つけた句をいくつか掲載した。(過去に掲載したものは除く。)


【鬼百合の参考句】
鬼百合やりんとひらいて蝉の声 (中村史邦)
鬼百合や妻が小女となりし家 (香西照雄)
鬼百合のこれみよがしの蕊の反り  (鷹羽狩行)
祖母の閨から鬼百合が出て行けり (高野ムツオ)
鬼百合が漂うている夜の書肆  (大西泰世) 
書肆(しょし)=本屋
 
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