■ 荒南風に木々はざわめき山唸る
( あらはえに きぎはざわめき やまうなる )
風は、花鳥風月という言葉にもあるように、風流の代表的なものの一つである。従って、風にも沢山の名前がつけられているようだが、現代ではそれを区分して感じることはほとんどないのではないか。それは、外で生活することが少なくなってきたせいで、ある面しかたがないことのようにも思う。
その風の中に、南風(はえ)という呼名のものがあるが、これは、山陰、西九州地方でよく用いられる南風の呼名で、詩歌にも詠まれ全国版になってきている。更に、梅雨の初めの黒い雨雲の下を吹く風を「黒南風(くろはえ)」、梅雨の最盛期の強い南風を「荒南風(あらはえ)」、梅雨明け後に吹く風を「白南風(しらはえ∥しろはえ)」というそうだ。
上句では、先日吹いた突風を「荒南風」として詠んだ句である。雨は降ってなかったが、突然の風に木々が大きく揺れ、ざわざわとどよめき、遠くに目をやれば山が唸るように横揺れしている。まさに生きている自然を感じた。 「荒南風」は、「南風」「白南風」「黒南風」とともに夏の季語。
因みに一昨年、荒南風の後の状況を以下のように詠んだ。
関連句:荒南風や淀める水気吹き清め(2011/6/24作) *水気(すいき)
参考句には、荒南風の句が見つからず、その他の南風の句を掲載する。
【参考句】
南風の船ゆく手に朱の厳島 (能村登四郎)
南風吹くカレーライスに海と陸 (櫂未知子)
南風に乗り君逝く沖は果てもなし (林翔)
黑南風や白しと見るは今年竹 (瀧春一)
白南風や渚に魚のふを洗ふ (静水)