スサノオで~す
小春「長野♪長野♪」
影狼「……」
『スサノオと日本の神を巡る旅』。
『高天原最強の武神』タケミカヅチの地、
鹿島神宮を経て、
僕らが向かったのは、
『地上界最強の武神』、
タケミナカタの地、
長野県は、諏訪大社。
全国に約25000社ある『諏訪神社』の総本社…ですね」
ス「せやな。
ここは7年に1回行われる、
『御柱祭』が有名なところやな」
死者も出たりするって…」
ス「まぁそれもそうやけど、
この諏訪の地ほど、
世間的に言われている話と、
実際が乖離(かいり)した場所はない」
あ「どういうことですか?」
ス「君らがこの諏訪の地と、
タケミナカタについて持ってる印象って、
古事記で言われている通り、
『国譲り』の争いの時に、
タケミカヅチにボコボコにされて、
敗れたタケミナカタが、
出雲からこの諏訪の地まで逃げ込んだ。
そのあと、
ここに鎮まったっていう話やろ」
あ「そうですね」
ス「まぁその見方を全否定する必要もないけど、
昨日も言った通り、
じゃあなぜそんなボコボコにされた神さまを、
『高天原最強の武神』、
タケミカヅチがその後も鹿島の地から、
見張りを続けなきゃいけなかったのか?
って話やねん」
あ「…確かに…。
どうしてでしょう?」
ス「まぁそれは、
タケミナカタに会ったらわかることやけど。
その前に、
この地には龍神も、
たくさんいることはわかるか?」
あ「言われてみれば、確かに…。
あっちこっちに龍がいますもんね…」
ス「元々ここは、
『洩矢神(もりやしん)』と呼ばれる、
強力な龍神が治めていた地でな。
その龍神と、
後にやってきたタケミナカタが争い、
タケミナカタが勝利したと言われている」
あ「そうなんですね…。
だから、
諏訪大社4社が囲んでいる、
諏訪湖には龍神がいると、
代々言われているんですね…」
まぁこういった話から考えても、
タケミナカタというのは、
決して弱い神ではない。
むしろ…」
あ「?」
ス「神話の中で敢えて、
『惨敗した神』というレッテルを貼ってまで、
この地に封印せざるを得ない、
強すぎた神やったってことやねん。
それにこの諏訪の地には、
もう1つ重大な謎が隠されているが…、
それをいつかお前は、
知ることになるやろう…」
あ「………」
あまりの定説とかけ離れた、
スサノオさんの話に言葉を失いながら、
僕らは諏訪大社上社本宮へ。
あ「?」
スサノオさんがそう言って、
指差したのは、
一本の巨大な柱。
7年に一度の『御柱祭』。
山から長さ約17メートル、
重さ約10トンもの巨木を曳いてきて、
諏訪大社四社の社殿の四隅に立てる一連の儀式の、
その実際の柱。
あ「…これがどうしたんですか…」
ス「なんでこんなん、
わざわざ神社の、
四隅に建てるんやと思う?
しかも、
諏訪大社四社全部に」
あ「…いや…。
全然分からないです…」
ス「これはな…、
『結界』やと言われてんねん」
あ「結界…?
『封印』ってことですか?」
ス「そういうことやな。
そこまでして当時の国を治めていた権力者たちにとっては、
抑える必要があった存在ってことやわな。
タケミナカタが」
あ「…何だかもう…。
恐ろしくすらなってきました…」
そして、
僕らは諏訪大社拝殿で参拝。
(二礼二拍手一礼)
あ「ここも大神神社と一緒で、
本殿がないんですね。
ということは、
ご神体は…?」
ス「この裏の山やわな」
そうして、
スサノオさんに連れられて、
境内から山を仰ぎ見るところへ、
場所を移す。
突然、
雲が凄い勢いで流れ始め、
突風のような風が吹いたとともに、
辺り一面に黒雲が広がった。
ス「おい、見えるか?
タケミナカタの登場や」
あ「………」
ス「おい」
あ「……ダメです。
見えないです…」
ス「封印されてるからか…。
それとも神威が、
お前に合ってないか…。
しゃあない、俺を通して話すか」
あ「すいません。
お手間をかけます」
そして、
九頭龍大神と話した時と同じように、
僕は目を瞑って、
スサノオを通しての、
タケミナカタとの会話が始まる。
スサノオ「おぉ、久しぶりやな。
タケミナカタ。
元気してるか?」
タケミナカタ「お久しぶりです。
どうされました、突然?」
スサノオ「いや、久しぶりに会いたくなってな。
それに今この人間と一緒に、
色んな神々を巡る旅に出とる。
その中で、
お前の本当の姿を、
もっと世間に知ってほしいと思ってな」
タケミナカタ「……。
…スサノオさん、いつもお気遣いをありがとうございます…」
ス「お前ほどの神が、
『弱い神』や『惨敗しただけの神』と、
思われ続けるのがイヤでな。
それにこの諏訪の地でも、
全国的にも、
人々に愛され続ける、
お前の本当の姿を知ってほしい」
タケミナカタ「………。
…恐縮です…」
ス「まぁ本来天地を覆せるほどの、
力を持つお前が固くなるな。
せっかくやからな、
今この場を通して、
人間たちに伝えられること、
伝えたいことはあるか?」
タケミナカタ「…そう…ですね…。
決して私事を申し上げるわけではないのですが、
歴史や神話に限らず、
人生というものを多方面で、
様々な角度から見ること…。
そのことをお勧め致します。
伝えられていることが、
決して真実とは限らず、
また『答え』と言われているものが、
必ず正しいものとは限りません。
一つの答えに縛られることなく、
世に伝えられているだけの言葉を鵜呑みにせず、
自分の手で、
自分の心で、
自分の足で、
自分だけの答えを見つけ出していく。
そこには必ず、
自分だけの『神』というものの答えが、
そして、
ご自分だけの人生があると思います。
そんな人生を一人ひとりが送られていくことを、
遠く諏訪の地から、
私はお祈りしています」
ス「…分かった…。
それだけ言えば十分やと思うで。
お前も分かったよな?」
あ「…はい…。
正直僕もここに来るまでは、
タケミナカタさんのことを、
ただ『敗北した神』だと思っていました。
そんな自分自身が、
今は恥ずかしく思います…」
僕のその言葉に、
タケミナカタさんが反応し、
言葉を返してくれる。
タケミナカタ「その言葉だけで、
我々、封じられし神々は嬉しいものです。
ぜひこれからもその気持ちを持って、
様々な神々に会われてください。
きっとそこには、
思っていた以上に、
遥かに、
素晴らしい出会いがあるはずです」
ス「決して自分自身の心を、
『固定概念』や『先入観』という、
穢れさせた状態で、
神々を映し出さないようにな」
あ「…はい…。
よくわかりました…。
ありがとうございます…」
そうして目を開けて、
諏訪大社全体を仰ぎ見ると、
そこにはボンヤリと、
しかし確かに壮大過ぎる、
タケミナカタのエネルギーが
映し出された。
全国2万5000社で祀られる神というのは、
それだけの理由がちゃんとあるから。
その意味をしっかり考えて、
しっかり知識としても学び、
これからもそんな神々の、
真実の姿を映し出してあげてほしい。
前のイザナミの時のように、
それが今の、
お前に出来る役割やねんから」
あ「…はい…。
分かりました…。
必ず…」
『スサノオと日本の神を巡る旅』。
旅に出る当初、
思い描いていた以上に、
頂いたものは大きく、
学んでいるものは果てしなく、
同時にこの旅が終わったとしても、
自分自身の大切な役割が続いていくことが、
この諏訪の地で、
強く心に刻まれた。
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