一.設問1
1.(1)本件ノートは会話の当事者であるWの供述が記載された書面であるから、伝聞証拠となり証拠能力が否定されないか(320条)。
(2)伝聞か非伝聞かの区別は、要証事実との関係で供述内容の真実性が問題となるか、単に供述の存在自体が問題となるかによると解する。
(3)本件では検察官の立証趣旨としてWと甲の会話の状況とあり、甲とWの会話の内容から甲が覚せい剤を故意に所持していたことを立証しようとしたものであると解する。とすると本件ノートはその記載内容の真実性を立証するために提出されたものといえる。
(4)したがって本件ノートは、伝聞証拠にあたる。
2.(1)本件ノートに記載された文字はWの筆跡によるものであることが明らかであるから、「被告人以外のものが作成した供述書」として321条1項3号の伝聞例外に該当しないか。321条1項3号の例外に当たるためには、①供述不能②証拠としての不可欠性③特信性が必要となる。
(2)ア.まず、供述者Wは平成20年1月20日に交通事故で「死亡」しているので、供述不能にあたる(①)。
イ.また、甲と本件覚せい剤を結びつける証拠並びに本件覚せい剤の入手状況及び過去の覚せい剤の売却価格の証明に関する証拠は本件ノートのほかには押収された覚せい剤しかなく、犯罪事実の証明に欠くことができないといえ、不可欠性の要件を満たす(②)。
ウ.次に、特信性とは書面の供述を信用すべき特別の情況が存在することをいう。
本件ノートは平成17年10月13日から1週間に3~5日程度の割合で、日付順に記載されており、空白の行やページがないことから、日々の出来事をその都度記載した日記であることが推認される。
そして、自宅の鍵がかけられている机の引出の中から発見され、当該鍵はWが死亡した際に所持していたことから、日頃からWが鍵を身近において管理し、日記を他人に見せることを想定していないことが伺え、虚偽の記載をする必要性が考えにくい。
また、日記中の、1月6日に9万8000円のショルダーバッグをC百貨店で甲に買ってもらった旨、1月11日に翌日にATMから3万円を下ろすつもりである旨、1月12日にD子と映画を見てウィンドウショッピングをした旨の記載はいずれも捜査の結果、真実であることが明らかになっている。
以上より、Wは本件ノートに真実を記載していたことが強く伺えるので、特信性が認められる(③)。
(3)したがって、本件ノートは321条1項3号の書面にあたる。
3.(1)だとしても、本件ノートの記載内容のうち、1月14日の甲の供述部分については、再伝聞とならないか。当該部分が別個の伝聞証拠となりうるかが問題となる。
(2)上述したように、要証事実との関係で供述内容の真実性が問題となる場合には伝聞証拠となる。
(3)本件では、上述したように検察官の立証趣旨はWと甲の会話の状況、甲が乙から本件覚せい剤を入手した状況及びX組による過去の覚せい剤密売の売却価格であり、このうち、甲が乙から覚せい剤を入手した状況、及びX組によるかこの覚せい剤密売の売却価格については、甲の供述部分の「Y組の乙から覚せい剤50グラムを250万円で譲ってもらった。うちの組では、これまで0.1グラムを1万5000円で売ってきたんだ」という甲の供述部分の内容の真実性が問題となる。
(4)よって甲供述部分は再伝聞となる。そして、再伝聞であっても複数の伝聞が積み重なったものであるので、それぞれの伝聞について例外要件を満たせば証拠能力を認めることができると解する。
(5)ア.では、本件ノートの記載全体としては、伝聞例外にあたるから、甲の供述部分が「被告人の供述をその内容とするもの」として324条1項が準用する322条1項の要件を満たせば伝聞例外として証拠能力が認められる。
イ.本件ノートの甲供述部分は、「被告人に不利益な事実の承認を内容とするもの」であり、任意性が例外の要件となる。
ウ.本件では、甲とWは恋人同士であり、会話がなされたのも甲の自室内であるから、外部からの強制の要素はなく、会話の中でなされた承認には任意性が認められるといえる。
エ.よって324条1項の準用する322条1項の要件を満たす。
3.したがって、本件ノート全体として、321条1項3合の要件を具備し、甲供述部分についてはさらに324条1項、322条1項の要件具備によって伝聞例外として証拠能力が認められる。
二.設問2
1.甲方捜索差押のため甲方玄関右側のガラス窓を割って甲方内に侵入したことについて
(1)本件では、甲方捜索差押のためドアチャイムを鳴らし「警察だ。ドアを開けろ。」と告げたがドアが開けられず、ドアには施錠されていたため室内に侵入するために玄関右側のQが窓ガラスを割っている。かかる行為は「必要な処分」にあたるか(222条1項、111条1項)。
(2)「必要な処分」とは、捜索・差押の実効性を確保するため、合理的に必要かつ相当な範囲・限度のものをいう。
(3)本件では、Qらは窓ガラスを破壊する前に、甲方玄関チャイムを鳴らし、「警察だ。ドアを開けろ。」と申し向けたものの、甲方内では「やばい。」という声と、室内を数人が慌ただしく走る音が聞こえたものの、ドアが開かれることはなく、甲らの任意の協力が期待できない状況であり、その上ドアは施錠されていた。さらに、覚せい剤犯という犯罪の性質上、証拠隠滅が危険が極めて大きい。以上を総合的に考慮すると、早急に甲方内に立ち入る必要性が認められる。
そして、態様としては手を差し入れられる程度の一部を割ったにすぎないから、捜索差押実行のため最小限のものであり社会通念上相当といえる。
(4)以上より、当該行為は「必要な処分」として適法である。
2.令状提示前に甲方に侵入したことについて
(1)Qらは令状提示をせずに甲方内に侵入し、その後3分以上経過した後に令状を提示しているが、かかる行為は110条に反し、違法の疑いがもたれる。
(2)110条の趣旨は、捜索の相手方に捜索場所をしますことで受忍限度をあらかじめ明らかにして防御の機会を与え、かつ権限濫用を防止する点にある。かかる趣旨に鑑みれば、原則として令状は事前提示することが必要である。
ただし、事前提示により証拠隠滅の恐れが大きい場合は、捜索・差押の実効性を確保するため必要であり、社会通念上相当な態様で行われている場合は、令状提示前に立ち入りの措置をとることも「必要な処分」として許されるものと解する(222条1項、111条1項)。
(3)本件では、Qらは甲方内に入室する前に内部に複数の人間が存在することがわかっており、これらの者の動静を把握する必要があったといえる。また、Qらが甲方内部に存在する者の人数、所在を確認し、その行動を注視出来る位置についた時点で令状を提示しており、室内に侵入してから令状提示までの経過時間も3分と短いものであるから、社会通念上相当といえる。
(4)以上より、令状提示甲方に侵入した行為は適法である。
3.赤色ポーチの捜索について
(1)本件捜索差押許可状では「Aマンション201号室甲方」が捜索対象として明記されているところ、Qは甲方リビングルーム内発見し内容物を確認した赤色ポーチは捜索範囲に含まれるか。
(2)令状主義(憲法35条1項、刑事訴訟法218条1項)の趣旨は、無差別な捜索・差押により住居の平穏やプライバシーが不当に侵害されるのを防止するため、裁判官の事前のチェックを必要とするものである。かかる趣旨に鑑みれば、令状の範囲に含まれるか否かは、令状を発布する裁判官により法益侵害が許可されたといえるか否かで判断すべきである。
とすると、捜索差押許可状に場所のみが記載されたような場合は、令状裁判官もそこに物が存在する可能性を考慮した上で、令状を発布しているといえる。
(3)本件において捜索差押許可状には「Aマンション201号室甲方」と場所のみが記載されており、当該赤色ポーチは甲方リビングルーム内に置かれていたものであるから、本件令状による捜索の範囲に含まれるといえる。
(4)よって、赤色ポーチの捜索は適法である。
以上