英語圏に生活したことがある人ならば、誰でも承知だと思うが、英語を話せるようになるのには、とてつもない時間がかかる。アメリカに住んで20年以上になるが、いまだに習得中である。英語が上達したい人にあげられるアドバイスはただ二つ、耳と口の筋トレをすること、そして視覚重視の英語環境から抜け出すことである。
言語の基本は音である。よって、英語が聞き取れる、話せるかどうかは、その音を聞き慣れているかどうか、または発し(話し)慣れているかどうかである。昔、何かの本で、英語は赤ちゃんが言葉を覚えるように習得しろ、と聞いたことがある。赤ちゃんは、音を聞き、状況とその音を結びつけ、それに似た音を口から発し、身近な人とコミュニケーションを取ろうとする。大人も一番手っ取り早く英語が上達するのは、それと全く同じ過程を辿ることである。ひたすら聞いて、ひたすら発音し、状況から意味を汲み取る。耳と口の筋肉を鍛え、その間の「回路」を作る。英語を聞く、話す、どちらか一方だけでは、その回路はできない。意味が分からなくても、聞いた音をひたすら口で「音として」真似る。コミュニケーションも二の次でいい。何の道具も使わず、体一つでできるこの単純な作業こそが、英語上達への一番の近道だと私は信じている。
そこで、最初のうちに邪魔になってくるのが、視覚で覚えた英語である。日本の学校で習う英語の勉強法は、完全に視覚重視である。教科書を使って、スペルを確認し、意味を覚え、それを音読する。これは、音に慣れる前に視覚を使ってしまうので、どうしても視覚に頼った英語になってしまう。英語の発音も、視覚に基づいたものなので、ネイティブのものとはかけ離れてしまう(これが俗にいう、日本語訛りの英語である)。視覚から入ってしまうと、話せない、使えない英語を習得することになり、ネイティブのような英語を習得するには、返って遠回りになってしまう。
音として習得する方法は、最初のうちは、意味やスペルが分からないまま英語を発音することになるので、違和感や恐怖心を感じるかもしれない。でも大丈夫。単語しか拾えなかった音が、文章として入ってくる瞬間がある。状況に合わせて意味もこれかな?と予想がつくようになる。その音を頼りに発音していけば、英語の発音はどんどんネイティブのものに近づいてくる。発音だけではない。イントネーションや自然な言い回しなど、自分の耳を頼りに、どんどん習得できる。
この方法のいい所は、記憶を全く使わない所である。私は記憶力が悪い。以前、家族や友達と出かけた場所、学校で習った歴史などは、ほとんど覚えていないのである。人の名前を覚えるのも拷問に近い。とにかく暗記ができない。しかし、音で習得する英語は、筋肉の記憶(英語でいうMuscle memory)を使うので、脳の記憶よりずっと長く続き、一度消えても、少し練習するだけですぐに戻ってくる。車の運転に似ている。頭を使わなくとも、体が覚えている感触である。
脳の記憶を頼らずに、耳と口の記憶に頼れば、何も考えずに英語がスラスラと口から出てくる、ということが実感できる日が来ると思う。