私たちは電車を乗り継ぎ、山形に着いた。
「何もないやん!」
そこはただ田んぼが広がる風景が続いていた。
大きい荷物を抱えながら、明日あるライブの会場へ向かう。
会場は市民会館みたいで何なく入れた。
「意外に広いねー」
「うちらこんなに遠い席になんねんや…」
「遠いねー」
「なぁ、Cが登場する所やらへん?」
「いいねー!」
私たちはステージの上に昇り、舞台袖から中央に歩いて行った。
「まじ似てるー!」
テンションが高くなった私たちは楽屋と書かれている部屋へ足を踏み入れた。
「ここに手紙置いといたらC驚くやんなぁ!」
「ピアノの裏とかね。」
「そんなんしたら見つからんやん。」
そう話しながらステージへ引き返す。
途中人に見つかりそうになりながらも何とか外に出た。
「この辺に泊まれる所あるんかなぁ?」
「働いてる人に聞いてみる?」

という事で受付みたいな所へ行った。
みんな無表情で仕事をしていて声を掛けるのを少しためらってしまった。
「すいませーん。」
「はい。」
一番近くにいた男の人がガラス越しに近くにやって来る。
「あの、この辺で旅館とかホテルとかありませんか?」
「ホテルですか…」
少し困った表情を浮かべ、電話帳を見ながら色々な人に声を掛けて行く。
しばらくするうちに初老の男性が来た。
「旅館でよかったらここがええんじゃなかろうか。」
そう言って旅館に電話を掛けてくれて予約までしてくれた上に旅館まで送ってくれたのだ。
「こんな田舎に何しに来たのですか?」
「明日のCのライブです。」
「やけに大きい荷物ですが何処からいらしたのですか?」
「三重です。」
「私は埼玉です。」
「まぁ!そんな遠くからいらしてくれたんですか。Cさんたちもこんな可愛い子たちに好かれて幸せですなぁ。」
「いやそんな…」
「私あそこの館長をしてるんですよ。」
「館長さんだったんですか?!」

そんな会話をしつつ、旅館に到着した。
「突然すいません。一晩お世話になります。」
「まぁ可愛い嬢ちゃんだこと!部屋はこっちですよ。」
柔らかい物腰の女の人が出迎えてくれた。
「あの、料金は…」
「そうねぇ…2人で8000円でいいわ。」
「いいんですか?!ありがとうございます!」
破格の安さで頭を下げ、その日は予約なしだったので夕食は自分たちで調達し、明日のライブに備えて早めに床に就いた。
次の日、ロッカーを使いたい為に午前中に旅館を出た。
会場に着くとやはり誰もいなかった。
私たちは館長を探し、昨日のお礼をした。
「もうすぐお昼休みなので食事にでも行きましょうか。」
お言葉に甘えて館長のお勧めの喫茶店へ入った。
「…もし、2人が誰にも話さないと約束してくれるならいい事教えてあげます。」
「はい。何ですか?」
「今日Cが泊まるホテルを教えてあげます。」
「本当ですか?!」
「山形市内の○○ホテルに泊まると聞きました。誰にも言ってはいけませんよ!」
「大丈夫です。こんないい事誰にも言いたくありません!」
そして館長さんの昼休みが終わる時間が迫り、食事をご馳走になって会場へ戻る。
「ところで、席はどこになりますか?」
「15列目です。」
「前から3列目が余ってるので交換してあげますよ。」
「そこまでしていただくのは何なので買い取ります。」
「もうお金を払っているのだから交換で構いませんよ。これは私の好意なので受け取ってください。」
「何から何までありがとうございます…。」
そうして急遽前から3列目になり、私たちのボルテージが上がる。
そして夕方になり、譲ってもらった席に着く。
「すごく近いやんなぁ。」
「すごく緊張するね。」
ブザーが鳴り照明が暗くなる。
途中まではいつもと同じライブだった。
「次は夜空ノムコウです。聞いてください。」
夜空ノムコウは大がリードの曲だった。
私はびっくりして腰を抜かしてしまった。
千宏に抱き抱えられながら立つ事が出来、大の歌に酔いしれた。
ライブが終わり、私たちは山形駅に向かった。
その日ははながさ祭りの最終日で酔ってる人やナンパ目的の人などが溢れ返っていた。
「ここがCが泊まるホテルやんなぁ。」
「すごいね…」
値段を見ると高校生の私たちでは手が届かない所だった。
仕方なく近くのベンチに座る。
しばらくしてメンバーの亮太さんをコンビニで発見した。
「ライブお疲れ様でした。」
「今日来てくれたの?」
「三重と埼玉から来ました!」
「三重?!…まぁ危ないから早めに帰りなね。」
はぁいと生返事をして亮太さんの背中を見送る。
次々とメンバーが現れる中、大と菊川さんは現れなかった。
『お疲れ様です☆今○○ホテルの下にいるんですけど…』
「おつかれー!○○ホテルは俺らが泊まってるとこじゃよ」
『少しでいいので会えませんか…?』
私は思い切って大を呼び出した。

「今日はまつりがあったから危ないよー!どこか安全な場所へいきな!」

返って来た返事はNOだと受け取った。
「来てくれないっぽい…」
「こっちも返信なしや…」

ベンチを見つけしょんぼりしてると、ホテルから出てくる2つの影が見えた。
それから部活を引退し、何もする事がなくなった私はますますCにのめり込んでいった。
夏のライブサーキットでは新潟、山形、仙台、東京、福島へ行った。
その時の新潟、山形は冬のカウントダウンライブで知り合った千宏と一緒に行った。
千宏は菊川さんのファンでCの橋口さんとメールをしており、二人だけの共通の秘密を持ってすぐに仲良くなった。
毎日長電話して語り合った。
そして8月3日。
新潟駅で千宏と待ち合わせをする。
私は午前9時に出発したが、鈍行で行った為途中の水上駅で3時間以上待たされ、新潟に着いたのは午後10時になっていた。
千宏と合流し、まず先に今夜の寝床を探す。
がしかし、その日はサッカーの大会が新潟で開催されていてビジネスホテルはおろか、ラブホテルまでもが満室だった。
空室があるホテルは宿泊料金が高く、私たちは途方に暮れていた。
日付が変わり、私たちはやっと駅から少し離れたラブホテルに泊まる事が出来た。
「始発が来る前に会場へ行かんとな。」
千宏の言葉で、私は始発の時間を調べ、朝4時に会場へ行く事にした。
時間は深夜2時。
私たちはシャワーを簡単に浴びて一つしかない大きなベッドで仮眠を取った。
2時間後、個々に設定していたアラームが鳴り響く。
長旅の疲れが取れないまま、私たちは会場のデパート前特設ステージへ向かう。
案の定誰も来てなかった。
「一番乗りやな。」
「スタッフよりも早いね。」
などと話しながら時間は経っていき、日が昇り始めちらほらと人が集まって来た。
私たちはいい席を取られないようにステージのすぐ前を陣取る。
「これからリハーサルをするので一端下がってください。」
スタッフの声に従い、その場にいた子たちはのろのろと後ろへ下がった。
まず最初にリハーサルをしたのはプリンの被り物をした2人組。
被り物をしてないと本人だってわからないくらい普通の人だった、というのが一番の感想だった。
後ろでは同じ年くらいの女の子3人がやる気なさそうに踊っていた。
「もっとボリューム上げて!」
「もっと!」
やたらと偉そうな口振りに不快感を覚えながら、次は男性アイドルグループ5人組。
ここはスムーズに進行し、あっという間に終わっていた。
Cのリハーサルはなかった。
そしてリハーサルも終わり、私たちは自分たちが座りたい席に一直線に向かった。
場所は最前列の真ん中からやや左。
「いい所に座れたね」
「せやなぁ。しっかしあの2人後から来たくせに図々しくあそこ座っとるわ。」
あの2人とは、早くから待ってる子たちがいるのにそれを無視し、最前列に居座った子たちがいた。
少し敵対心を持ちながら13時に行われるライブを待つ。
「大と耕太にメールしてみぃひん?」
「いいね。」
私は大に、千宏は耕太にそれぞれメールを送る。
「おはようございます☆今新潟にいるんですよo(^o^)o今日のライブ頑張ってください♪」
それぞれ似たようなメールを送った。
先に返事が返って来たのは大だった。
『おうよー!今徳島から飛行機に乗るとこじゃ』
「突然なんですけど、大さんにお願いがあるんですけどいいですか?」『なんじゃー』
「今日のライブの時に私たちがやる振りをしてもらいたいんです(*^_^*)」
『わかったぜー!』
「きゃー!大さん振りやってくれるってぇ!!」
「やったやん!耕太なんか返事すらあらへん!」

などと話していると、ある2人の子に声を掛けられる。
「Fのファンですか?」
「Cです。」
「よかったらFが出る時席変わってもらっていいですか?」
「Cの時に変わってもらえたらいいですよ。」
そこから4人のぎこちない話が始まり、Fの方が早いという事で席を譲り途中で千宏と2人でジュースを差し入れた。
「これ飲んでください。」
「あっ、ありがとうございます…。いいんですか?」
「暑いのに席取るために頑張ってるからお礼も兼ねて。」
その後にプリクラを撮り、Cの出番を待った。
Cの前のFが登場した時はアイドルグループともあって黄色い歓声が飛び交った。
トークを聞くと後に握手会があるらしく、席を共有した子は泣いていた。
「本当にありがとうございました!!」
握手会に遅れないようにと挨拶もそこそこに別れ、私たちは席に座りCの登場を待つ。
MCが登場し、テンションの高いトークをしているが私の心臓は飛び出てしまいそうな程高鳴っていた。
もうすぐで大を見れる。
もうすぐ会える。
そう思うだけで自然と頬が紅潮した。
「それではCの登場でーす!」
もどかしかったMCもその一言で終わり、全身に緊張が走る。
心臓がうるさいくらいに体中に響いてる。
BGMがロック調に変わり、ステージには誰もいなくなる。
曲がしばらく鳴った後、Cが登場した。
黄色い声が飛び交う中、私は一瞬でも見逃さないように大に視線を送った。
ステージ上の大は輝いていてカッコよくて…。
目が合いそうになる時は恥ずかしくて視線を逸らす。
そうしているうちにラストの曲となってしまった。
私たちは振りで思い切り関節を曲げたピース通称「にゃー」をひたすらやり続けた。
大はわかったと言わんばかりのはにかんだ顔をしつづけていた。
今日はもうやってもらえないのかと諦めた時、ステージから去る瞬間に大は振り向き様ににゃーをやってくれたのだ。
私は嬉しいやらびっくりしたやらで泣き出してしまった。
本当に嬉しかった。
大は私の事をちゃんと見てくれていた。
そう思うと涙はますます止まらなかった。
その日はCは関東へ戻るとの事。
恒例のお疲れ様メールを打ち、私たちは次の目的地『山形』へ向かった。
「本物…?返信していいのかな…?」
悩んで悩んで悩みきった後、意を決して返信する事にした。

『Re:
返信していいのか迷いましたが返信しちゃいました(>_<)
まさか大さんからメールが来るなんて…
今日から勉強頑張れそうです(*^_^*)
それでは☆』

度胸を振り絞り送信ボタンを押す。
「送信しちゃったぁ…」
心臓が口から飛び出そうなくらい動いて痛い。
それからすぐに放課後となり、大会に向けての練習は大詰めを迎えていたが、私は浮ついていてどこかおかしかった。
携帯を何度も確認していき、メールが来てないことにがっかりするという行動を繰り返していた。
夜になり、今日の練習が終わって全員で帰る頃に携帯が鳴る。
『ラジオの収録じゃったわーい!ゲストはお笑いのTですごいテンションじゃったよ笑いつでもメールしてきてよいよー。』
送り主は大だった。
私は嬉しくなりすぐに返信する。
『今ちょうど部活が終わった所で返事が返ってきてびっくりです☆
ラジオ毎週聞いてますよo(^o^)o』

『部活いいねー。何部なの?ラジオ聞いてくれてありがとな!』

『演劇部で今度の26日に大会があるんですよ(>_<)
よかったら見に来ます??(笑)』

『その日は仕事じゃー!すまぬ…』
『仕事なら仕方ないですね(;_:)
お仕事頑張ってください☆』

その日はそれで終了した。
次の日、あまり寝付けなくて目覚ましより早く起きてしまった。
真っ先に携帯を開き受信ボックスを見る。
するとそこには大からのメールがしっかり残っていた。
今まで通りに支度をし、自転車を漕いで駅に向かう。
いつも聞いているMDの中身はもちろんC。
発売されたばかりのアルバムをノリノリで聞きながらいつも一緒に登校している絵美と落ち合う。
電車の発車を待ちながら絵美と他愛のない話で盛り上がりながら大にメールを打つ。

『おはようございます☆
今日携帯見たら大さんのメールが残っててびっくりしました(>_<)』

送り終わった後、学校に着きいつもと変わらぬ景色に溶け込む。
大の返事はお昼頃に返って来た。

『なんでびっくりしたん?』

『昨日が夢オチかと思いまして…』
『あはは!夢じゃなかったろー。結衣はおもしろ子じゃな』

『よく面白いって言われます☆(笑)
何で私の名前知ってるんですか?!』

『手紙に書いてあったじゃろー!』
『そうでした…(^_^;)
あと、私アカペラサークルに入ってるんですけど、大会の後にライブがあるんですよ(>_<)
緊張しない方法ありますか??』

『ライブいいねー!手に人書いておけば大丈夫じゃよ』

メールをしながら部活をやり、家に帰る。
明日はアカペラの練習で大宮に行く。
朝10時 大宮。
メンバーは埼玉、群馬、栃木から集まっている男女7人。
普通のアカペラグループよりも大人数だ。
発表する曲は
DREAMS COME TRUE
「うれしい!たのしい!だいすき」
坂本九
「上を向いて歩こう」
の2曲にした。
アカペラをした事がない7人は下手くそながらも一生懸命練習し、何とか聞かせられるくらいにまでなった。
そんな日々を送っていたある日。
いつものように大とメールをしている時だった。
『26日の夜空いてる?』

『ライブが終わり次第ですけど空いてますよ☆』

『じゃあその日飲みに行くか!』

『私なんかとでいいんですか?!』
『(笑)会ってゆっくり話そう!時間はまた後で連絡するよー』

突然大との飲みが決定してしまった。
心臓が高鳴る。
ただでさえ大会とライブで緊張しているのに同じ日に大とのデートが重なってしまい私は10kgも痩せてしまった。
そして当日。
朝7時に大会場所の会館前に集合する。
順番は3番目で午前中に舞台は終わる。
2番目の学校が終わり、自分たちが使う大道具をステージに運び入れる。
劇の題名は
『クッキー』
主人公(琴美)はお母さんを早くに亡くし、父親は仕事でなかなか家に帰って来ない孤独な女の子。小さい時にもらったクマのぬいぐるみのクッキーといつも一緒にいた。
そんなある日、突然父親から「新しいお母さんと妹(初音)が来る」と連絡があり、一緒に暮らす事になるが打ち解けられず自分の殻に閉じこもってしまう。
それを見兼ねたクッキーは妖精となり、琴美の前に現れる。
琴美はクッキーに「お母さんに会わせてほしい」とお願いをする。
クッキーはしぶしぶお母さんを死者の国から呼び戻すが…
というストーリーで、私は妹の初音役だった。
始まりのブザーが鳴り、会場は暗闇に包まれる。


程なくして劇は終わった。
私は大道具を片付け、誰よりも先にメイクを落とし着替える。
「美樹ちゃーん!これからライブだから先帰るけどごめんね!」
そう言い残し駅まで走り電車に乗り込む。
幸いライブ会場までは乗換えなしで行けた。
「もうリハーサル終わってるんだろうな…」
そう思いながら電車の中でメイクをし直す。
メンバーの彩華に電話をし、今の状況を聞く。
「今はお天気ぐもさんが歌ってますよー。しかも会場にCの林さんが来てます!!」
何故かというと、サークルの先輩グループのヘルプとして林さんの彼女がいるからだ。
私は走って会場まで行く。
会場前では彩華と瑠奈が手を振って待っていた。
「走らなくてもよかったのにー。」
「早く合流したくて…」
「ってか制服かよ!」
「午前中部活の大会だったんだから仕方ないじゃーん。本番までにはちゃんと着替えるから。」
そう話しながら中へ入る。
会場は満員だった。
一気に足が震えてくる。
そして何組か終わり、私たちの番になった。
私はDREAMS COME TRUEの歌でリードを任されていたが、舞台の直後のため、声が思うように出ず苦戦した。
無事に歌い終わり、最後の全員でLOVE LOVE LOVEを歌う為に舞台袖に移動した。
無事にライブは終了し、一行は新宿のカラオケに大移動して打ち上げをした。
私はこの後の大との約束があるために少ししか参加しなかったが、解放感からかとても楽しかった。

夜7時になり、私は打ち上げを途中で切り上げ埼玉の浦和へ向かう。
待ち合わせ場所は浦和にある駅の西口に夜8時。
電車の中では緊張がピークだった。
一駅一駅が余計に長く感じる。
約束の10分前に着き、柱に寄り掛かりながら大の到着を待つ。
心臓の音が周りに聞こえてしまうくらいに高鳴っていて呼吸すら上手く出来なくなりそうだった。
約束の時間を5分程過ぎた頃、遠くから自転車を置く大を発見した。
こちらに向かってくる姿を確認すると急に恥ずかしさが増し、気付かない振りをしてしまった。
「…おぅ。」
顔を覗き込むようにして大がやって来た。
「…どぉも。本当に大さんだったんですね。」
「まだ信じてなかったんかい!普段は眼鏡なんじゃな。幼くて可愛いよ。」
「童顔なの気にしてるんで言わないでください…」
「ははは!まぁどっかに入ろうや。」
そうして二人並んで近くの居酒屋に入る。
席に着くなり店員の注文の催促があり、とりあえず飲み物を頼む。
「生と…」
「…カシスオレンジで。」
店員が去った後、メニューを見ながらたどたどしい会話が続く。
「今何歳だっけ?」
「17歳です。」
「高校2年生か。」
「3年です。」
「部活とライブはどうじゃった?」
「めっちゃ緊張してあまり覚えてないんですよ…。そういえば、林さんがライブに来てましたよ。」
「あいつは休みだったからなー」
そんなこんなでお酒が運ばれて来た。
「じゃ、カンパイ!」
「初めまして。」
「なんじゃそりゃ!」
緊張はしてたものの、何とか会話が出来た。
「結衣は彼氏いるのかぇ?」
「いましたけど、この間別れました。」
「て事は体の関係は…?」
「…ありました。」
「最近の子は早いなー」
「おっさんみたいな発言ですね。」
「おっさんじゃからな。避妊はちゃんとしといた方がええで?」

避妊という言葉を聞いて私は何も言えなくなってしまった。
「…どうした?」
大が不思議そうな顔をする。
「私2回堕ろしてるんですよ…」
「…。」

沈黙が流れる。
「…それは辛かったな。」
大から意外な言葉を聞く。
「引かれると思ってました。」
「そんな事では引かんよー!」
大に話した事で胸のつっかえが取れた気がした。
そうしている内に終電の時間が迫って来ていた。
「そろそろ帰るか!」
「そうですね…。」
このまま時間が止まればいいと願っていたが叶うはずもなく、席を立ちお会計に向かう。
「私いくらですか?」
財布を出して金額を尋ねる。
「奢っちゃるよ。年下には奢るのが俺のポリシー。」
「そんな悪いですよ。」
「いいから黙って奢られときぃ。」
「すいません…ご馳走さまです。」
そうして駅に向かい、大はホームまで見送りに来てくれた。
「今日はありがとうございました。楽しかったです。」
「うむ。こっちも楽しかったよ。」
このまま離れたくない…
その言葉を飲み込み続けている間に電車が来てしまった。
「じゃ、またな!」
「また遊んでください。」
ドアが閉まる。
『またな。』
この言葉がたまらなく嬉しかった。
またという事は次があると言う事。
私は電車の中で大にメールをし、家に着きまだ興奮冷めやらぬ体を休ませた。