(C) 2015 Daily Beast

この数日間、K-12(小中高の12年間)を受け持つ学校をいつ開けるか、どう授業展開するか、といった話をいろいろなメディアで耳にしたし、トランプ政権が「再開しない学校には予算を与えない」と声明を出したものだから、各州や街の学校が8月以降、どう対応していくのか、何かと興味は尽きない。

今日は、そうしたアメリカの学校が、州によって教え方に極端な差が出るトピックのひとつ、「Confederacy」を少し突っ込んで説明したいが、その前に小話を。

ニュージャージー州の南東に位置する、人口1万人ちょっとの小さな海岸沿いの街、オーシャン・シティに、「Manco & Manco Pizza」というピザ屋がある。


(C) 2020 News Break

1956年から運営している、老舗店。



YELPでの評価も安定しており、名物はプレーンピザ。

なぜ急にこの店を取り上げたかというと、先日いつものようにあちこちのニュースを見ていたら、この店の従業員がコロナ陽性と診断されたので、当面営業停止になった、という2020年の今なら、よくある話。〔NBC Philadelphia〕

ただ、日本人である私は、この店の名が深く刻まれたというか、死ぬまで忘れないだろう。いっそのこと墓石にまで持っていくか。


(C) 2017 PhillyVoice

諸事情によりカタカナ表記ができず、店名を言うときも「あのピザ屋」としか私は発せないが、オーシャンシティは夏場になると人口の10倍以上の観光客が訪れるとのことで、今年はもうダメでも、来年の夏あたりにオーシャンシティを観光する機会があれば、その頃には営業再開しているだろうから、話のタネに立ち寄るのもいいかもしれない。



あとついさっき、この記事を書き始める前にジョギングをしていたら、信号待ちのときに「UNITED WE STAND AGAINST COVID19」とプリントされたTシャツを着た白人の若いあんちゃんを見た。

思わず私も反射的に「Wow!」と発したが、ちょっと調べたらホントにこれ、あった。

私が見たのは、このフレーズに、アメリカ国旗がプリントされたバージョンで、そこから今日の本題につながるのだが、その前にもいっこ。


(C) 2020 Benefits Pro

Noriko-sanが最近遭った、医療費問題。

彼女が他紙に寄稿したコラムだが、そこでは、旦那さんが緊急事態で、ER(集中治療室)に入れられて、たった数日間で$80,000(約800万円)近い請求をされつつも、健康保険のおかげで、およそ$700(7万円)で済んだこと。

冷静に書いているが、7万円vs.800万円である、健康保険の有無で。


(C) 2018 Kaiser Health News

そう、アメリカの健康保険に関するシステムは、完全にビジネス。

我が家でも、毎月、$500~$600は取られている。

個人だったら月$200ぐらいのプランもあるみたいだが、サービスがどこまで制限されるか分からないし、健康保険の契約ひとつにしても、きちんとした比較検証が必要になる。

自分に適した健康保険を見つけるには、結局、相当の英語力が必須になるので、来年以降に渡米を真剣に考えているひとたちは、こういった「生活面での利便性」を自力で見つけて、さらに保険会社と交渉することも、覚悟しておいたほうがいい。


(C) 2018 Smithonian Magazine

話を戻す。

Confederacyと書いて「カンフェデレスィ」と読むが、このたったひとつの単語から、アメリカの根っこにまつわる人種差別問題まで話を広げられるならば、あなたはぶっちゃけ、アメリカに住む4割以上のひとよりも、アメリカの歴史に詳しいと断言できる。

ちなみに「co」は高確率で「」と発音して正解で、たとえばンパニー(company)やリーグ(colleague)、ンチュロール(control)などなど。

コーイグズィスト(coexist)のような「コ」パターンもあるが、大抵は「カ」の発音でOK。何よりも響きが、カッコよくなるし、ネイティブっぽくもなる。マンカマンカ。


(C) National Geographic Society

Confederacyをすごく簡単に説明するなら、「約150年前の、南北戦争のときに戦った、連合軍」。

ジョージア州やミシシッピ州といった、1861年当時、黒人奴隷を合法・正当化していた州(その数は最終的に11、と言われている)の軍隊が集結し、奴隷制撤廃を主張する他州と戦争を行った、それが「アメリカ連合国(Confederate States of America)」。

その戦争が、「南北戦争(Civil War)」と命名されるわけ。


(C)History.com

なぜかというと、連合国に加入した州は、すべてアメリカ南部。

奴隷制の撤廃をめぐって、文字通り、北と南が、戦争を行ったのだ。



1861年から1865年までの長期に及んだこの内戦、北側は死者約37万人、負傷者約83万人を、南側は死者約29万人、負傷者約86万人という、互いに甚大な被害を出す結果となる。

これだけ犠牲を払いつつも北側が最終的に勝利したことで、黒人がやっとまともな人権を得られるようになった、という流れ。



尚、30年ぐらい昔はビデオゲーム作りに関してもおおらかというか規制が無さすぎるというか、南北戦争をかなり雑に扱った「North and South」というファミコンゲームがあり、ゲーム自体もかなりつまんなさそうだが、日本で発売されたときのタイトルが「わくわく南北戦争」

ゲーム中ではインディアンやメキシコ人が災害扱いされていたりと、まあ不謹慎な内容だが、南北戦争の概要を知ると、悪意が感じられないだけに、一周回って天然級に面白く感じる邦題だ。


(C) 2017 Daily Beast

話が逸れたが、南北戦争は1,000年前とかの話ではなく、わずか150年前の、史実なのだ。

南北戦争が終わってからこの150年もの間、特に南部の州で、今でも定期的に問題になるのが、この「Confederacy」に関わる物事。

具体的に指すと、たとえば当時連合軍で活躍したヴァージニア州の将軍ロバート・リー(Robert E. Lee)の銅像を、観光地でもあるヴァージニア州リッチモンドに設置、というもの。


(C) 2020 NBC News

これは北側の州に住む、それこそ先祖をリー将軍の軍隊に殺されたひとたちからすれば、「ふざけんな」。

黒人側からしたら、自分の祖先たちを奴隷として扱っていた連中が、英雄として祭り上げられているのだから、不快極まりない。


(C) 2015 National Post

何しろ連合軍の根本的な動機は、どんなに擁護的な視点から見ても、「黒人奴隷を支配したい、手放したくない」なのが、事実だから。

銅像だけでなく、南部在住の白人、特に高等教育を受けていない層は、南北戦争の発端と目的をきちんと理解しておらず、「黒人奴隷をキープしたいからリンカーンたちと戦った」を「圧政に対して自由を求めて戦った」と解釈しているから、連合国の国旗などを堂々と家の外に飾って「我が家の祖先は立派に戦って死んだから、それを称える」と、完全に間違った主張をする。



イギリス発信だがアメリカ国民から統計を取るのに優れている「YouGov」が、今年1月、全米の約34,000人を対象に、以下のアンケートを行った。

「連合国の国旗をどう捉えますか? 差別(racism)、先祖伝来(heritage)、知らない、どちらでもない、の4つから選んでください」

結果、41%が「差別」と解答したが、34%は「先祖伝来」と答えている。

年齢別で見ると、65歳以上の49%が「継承すべきもの」と反応しており、一方で18~24歳の51%は「人種差別を助長するもの」と見なしている。

そして、まともな高等教育を受けていない(中学や高校で中退)白人の49%は、あの国旗を「古くからの美しい伝統」と解釈し、見事に騙されている。


(C) 2015 CNN

こういうデータを見るのはとても興味深いと同時に、怖くもある。

この国の3人に1人がレイシスト、と、かなり適当かつ大雑把な判断が、100%間違っていると言い切れない。

テキサス州ダラスの地元紙「The Dallas Morning News」が3年前に捉えた、連合国の国旗を擁護する白人プロテスターと、それに冷静に反論する黒人との衝突映像がまあ、強烈。



白人側が「おれたちの先祖は家と農場を守るために戦ったから国旗は宝物なんだ!」とヒステリックに叫べば、黒人側は「じゃあその農場で働いていたのは誰?」と、冷静かつ反論不可能な返しをする。



すると白人側がさらにキレて「あの当時黒人奴隷を買うのにいくらかかっると思ってんだ!」と、完全に破綻した返しをするなど、いったいこいつらはどういう教育を受けたらこんなバカになれるんだと呆れるが、それ以上にこの、だらしない格好のクソデブ白人とスーツを着こなしたインテリ黒人とのやり取りだなんて、ある意味じゃ奇跡の一枚だな。こんなの現実にあるんだ、へ~~。


(C) History.com

じつのところ、南部の州では、1960年代に起こった公民権運動に対して差別意識を燃やした無教育な白人らによって、連合軍関係を記念碑化する動きが顕著となり、地元の黒人や、まともな教育を受けた白人たちを立腹させた。

黒人奴隷だけでなく、北側のアメリカ兵も容赦なく殺していった将軍らが、英雄的な扱いで、あちこちで銅像化されるのだから当然、それを撤去しろ、という声も増してくる。


(C) 2020 News Observer

ジョージ・フロイドの件で反対デモがやや暴動化したとき、こうした銅像が一般市民の力で次々に倒されていったのも、納得できる。つまり、そういうこと。

でもまあ、中には作り手がどういった心境だったのか不思議に思う銅像もあるもので、テネシー州ナッシュビルの高速道路の目立つ場所に建てられたネイサン・フォレスト将軍(Nathan Bedford Forrest)が一例。

建てられたのは1998年で、フォレスト本人がKKK初のグランド・ウィザード(棟梁)であったことから、何度かラクガキなどをされたり、他の街の市長が撤去を要請したりなど、いろいろあったらしいが、何よりも目を引くのがそのツラ。



ウィキなどで見れる本人の写真から、何をどう解釈したらこんなナマハゲ・フェイスになったのか、そもそも銅像の作り手が信者を装ったアンチなのか。

はい、もう一度、アップで見てみましょうか。





スカイプのアイコンを不意にこれに差し替えたら生徒さんたちからどんな反応されるかな、とつい悪戯心が沸いてしまうが、こっちの銅像のほうが本人のKKKボス感が良く出ていると思うので、高速道路のド真ん中みたいな目立つ場所でなきゃ、展示はちょっとは有りかもしれん。


(2020) WTOP News

実際、こうした銅像の問題点は、「公の場所に設置されてしまっている」こと。

銅像を作ること自体は、歴史を正確に振り返る意味でも、決して使えない手段ではないし、むしろ原爆記念館のように、こうした銅像や、当時使用された武器、書かれた文献などを、興味を持つ、もしくはきちんとした教育を受けるべき学生へ向けて、専門の博物館などを作って一箇所に集める、ぐらいにすれば、とも思う。

先ほどのダラス・モーニング・ニュースの映像に見られたような、バカが体から全開している白人どもだって、連合国の国旗だけを集めた博物館を設ければ、まあ無職っぽいし、毎日にでも参拝するだろう。


(C) 2020 The Hill

アメリカ連合国に関する人物や素材はかように、扱いの難しいものばかり。

でもひとつひとつは、そこまで理解の困難なトピックでは、ない。

アメリカ連合国=奴隷を手放したくない=黒人を下に見る=北側のアメリカ人をも殺した、という覆せない事実さえ理解できれば、なぜああした将軍の銅像や国旗に怒り心頭になるひとびとが多いのか、合点がいくはず。

尚、この「Confederacy」を題材にさっそく、英会話用の課題を作成しておいたので、常連の生徒さんたちにはぜひ、履修してもらえれば、だ。

(Stephen)