スタッフのひとから……

「アメリカで毎日流れる深夜のトーク番組ってたくさんあせるありますけどなに見たらいいんですかね~デレデレ

……というリクエストを頂いた。

私も、デヴィッド・レターマンがゲストをコケ(roast)にするのが民放でも受け入れられていた頃は、23時以降の所謂、深夜帯に流れるトークショーを、よく見ていた。



若い頃と違っていまでは、夜10時にでもなると眠気に襲われるから、深夜のトーク番組からはすっかり離れてはいた。

で、まあ、ストリーミング主流の2019年ともなると、その類の番組数が遉(さすが)に増えただろうな、と思ったら、そうでも無かった。



良い機会なので、幸いなことにどの番組もオン・デマンド対応で、いつでも好きな時に見れる仕様にしてくれているから、一気に全部見てみた。

深夜のトーク番組は、お昼には言えない下世話な内容や、直球の下ネタ、政治・社会批判が許されているので、どの番組も見始めると、やっぱり面白い。

以下、番組の簡単な感想と、【知的度(Intelligence)】【低俗度(Vulgarness)】【情報度(Informativeness)】【活性度(Vibrantness)】の4項目を、これらの番組を見ている周囲の友人・知人からの意見を取り入れつつも基本的には私の判断で、★5つ評価で記していこう。



またどの番組もYoutubeの公式チャンネルを持っており、アメリカ以外の国からでも動画視聴が可能なので、興味を持ったらどんどんクリップを掘り下げていくのを勧めたい。

どの番組もYoutube動画には字幕表示を可能にさせているので(シークバーの真下に[ CC ]というボタンがあるので、それを押せばOK)、それを利用すれば、内容理解も楽になるはず。


# # # # #




『The Tonight Show Starring Jimmy Fallon』
<Official Website>
<Youtube Channel>
<twitter>
【知的度(I)】★★
【低俗度(V)】★★★
【情報度(I)】★☆
【活性度(V)】★★

月曜から金曜の23:35~24:34までオンエア。(金曜はたまに再放送)
底の浅い攻撃的なコメントで人気を固めたジェイ・レノ(Jay Leno)の後釜として、レノとはほぼ正反対の、良いひとオーラ全開の若手芸人ジミー・ファロンが「トゥナイト・ショー」を引き継いだときは、視聴者の多くが「彼で勤まるの?」と感じたが、時事ネタやゲストに対する彼のソフトなコメントは逆に人気を博し、一時期は視聴率トップを稼ぐまでに至った。
残念ながらそれが続かなかったのは、皮肉にも、大統領になる直前だったドナルド・トランプをゲストに呼んだ際、ファロンがいつもの軽い調子で、トランプの髪を豪快にいじったから。
「Trump Hair Tussle」と後に言われるほどの騒ぎになり、「芸人ごときが失礼すぎる」的な反動を、主に共和党支持者の(密度濃い話を嫌う、それこそファロンの番組の主な)視聴者から浴びたため、以降、視聴率が急降下。
実際、2016年の頃のファロンの番組と、今の彼の番組を比較して見ると、勢いに溢れていた2016年とは対照的に、2019年度のは全体的に覇気が感じられず、トーク内容もインタビュー内容も薄さばかりが残ってしまう。
何に対してもそれなりの情報量を求める私のような人間には正直、退屈。
もっとも、ファロンのトークは別段、難しいことを言ってないし、ゲストも豪華なので、有名人のテレビ出演に興味があり、リスニング力を鍛えたいひとには、これぐらいのレベルが丁度いいとは、思う。




『The Late Show with Stephen Colbert』
<Official Website>
<Youtube Channel>
<twitter>
【知的度(I)】★★★★☆
【低俗度(V)】★★☆
【情報度(I)】★★★★☆
【活性度(V)】★★★★

月曜から金曜の23:35~24:34までオンエア。(金曜はたまに再放送)
ジミー・ファロンとは対照的に、トランプが大統領に選ばれてから、視聴率が急上昇。
結果的に、深夜トーク番組の一番人気にいま君臨するのが、スティーブン・コルベア。
それこそ毎日、トランプの失言や矛盾を、証拠映像と共に徹底的に炙り出し、かなり高度な皮肉を交えた上で、視聴者を納得させる熱いトークを、当たり前のように展開。
視聴者の層は明らかに民主党寄りだが、トランプが失言を毎日ペースで生産してくれるし、それらをテンポよく、分かりやすく笑いに落とし込んでくれるから、何だかんだでトランプに違和感を覚えている共和党寄りの層も、確実に引っ張ってきている。
右も左も馬鹿にしていたケーブル番組時代のブチキレぶりもあり、下世話さ重視のデヴィッド・レターマンの後任としてコルベアは頭が良すぎるのでは、と最初は思っていたし、2015年に2代目レイトショー司会者に選ばれてからしばらくは、視聴率で苦戦が続いていた。
だが、今ではすっかり、分かりやすいネタで大衆を惹きつけつつ、それでいて視聴者の知力をちゃんと試す、メジャーの局に相応しい名司会者として、堂々とした佇まいを見せている。
インタビューに関しても、芸能人や役者に対してはやや甘いが、政治家や議員にはあいかわらず容赦がなく、相手が答えに詰まる質問を、今でも普通に浴びせている。
私の周りでも、アメリカで何か重大な事件が起こった時にはこの番組を見るひとが多いし、内容理解にはそれなりに高い英語力(最低でも、アメリカの短大の授業についていけるレベル)が要求されるが、こんな視聴者の知力を試す番組が深夜トークのナンバーワンという辺り、アメリカの底知れなさを感じさせられる。




『Jimmy Kimmel Live!』
<Official Website>
<Youtube Channel>
<twitter>
【知的度(I)】★★★
【低俗度(V)】★★★★
【情報度(I)】★★
【活性度(V)】★★★

月曜から木曜の23:35~24:34までオンエア。
2003年から放送しているので、深夜トーク番組の司会者としては、現在最長。
それまでは比較的、民放にも関わらず、右も左も馬鹿にする立ち位置を取ってはいたが、トランプが大統領に当選してからは、自身の息子の命を民主党の保険政策で救われた体験を経たこともあって、現在ではフリートークにおいてかなり民主党に寄った意見が目立つようにはなった。
とはいえ、ブルックリン出身のキンメルが今はハリウッド近郊に在住するだけあって、俳優やミュージシャン、芸能人のゴシップ&騒動をネタにするのが、依然として巧み。
時事ネタや流行を駆使してテンポよく笑いを取ってくるキンメルの知性の高さは、50代になっても、衰えを知らない。
情報の教育性は薄いが、翌日、職場の同僚や学校のクラスメートと、軽い会話をする上で、この番組はかなり役に立つ。
もっともキンメルはむかしから、明確な悪意を持って差別的なネタを露骨に突っ込んでくるくせがあり、それは今でもぜんぜん変わってないので(最近だと「中国人を殲滅しろ」と無垢な子供たちに言わせたコント)、当然、他の司会者と比べて失言が多い。
そのあたりを「まーたこいつばかなこといってんなー」で済ませられるなら、有名人を一度にたくさん読んでのインタビュー(アベンジャーズの主役たちを一晩で集めた最近のクリップがその典型)などの、お祭り騒ぎ的な見所を楽しめるだろう。




『The Late Late Show with James Corden』
<Official Website>
<Youtube Channel>
<twitter>
【知的度(I)】
【低俗度(V)】★★★★★
【情報度(I)】
【活性度(V)】★★★★★

月曜から木曜の24:35~25:34までオンエア。
先述のスティーブン・コルベアの後番組だが、その方向性が180度違うのは、いまでも全く変わらない。
有名ゲストを呼んで、早食いだのもぐら叩きだのドッジボール大会といった、体を張ったコントに付き合わせる、コーデン及び番組スタッフの方向性には、もはやブレがない。
これほど、深酒&酩酊状態で、げらげら笑って深夜番組を楽しむのにふさわしいものは、民放では滅多にないだろう。
もうこれね、見てると、どんどん馬鹿になっていく感じが、するわよ。
だって、リスニング力がないひとをも普通に笑わせるぐらい、ギャグがビジュアルに頼りっきりだもの。
でも、暗いニュースが多い昨今、このすっからかんさは貴重なもので、たとえ大事件が起こった翌日でも、笑いを決して忘れないこの番組の姿勢は、単純にいやなことを忘れたい気分の時には、本当に頼もしい。
願わくばこの能天気で、今日のストレスを払拭させてくれる番組が、コーデン本人が引退するまで、続いてほしいものだ。




『Late Night with Seth Meyers』
<Official Website>
<Youtube Channel>
<twitter>
【知的度(I)】★★★★
【低俗度(V)】★★
【情報度(I)】★★★★
【活性度(V)】★★

月曜から木曜の24:35~25:34までオンエア。
先述のジェイムズ・コーデンとは、非常に対照的。
というのも、この番組はジミー・ファロンの後番組で放送されるが、その内容は極端なまでに、ファロンと隔たりがある。
トランプに対する強烈な批判や皮肉を毎晩展開し、国内の時事ネタや国際的な報道にも、かなり鋭い切込みを入れていく、その辺の浅いニュース番組も真っ青の、骨太な作りだ。
司会者のセス・マイアーズが、にこやかさを見せつつも目が常に笑っていない、連続殺人犯みたいな表情を特徴とし、淡々とネタを処理していくのもあって、受け手としては純粋に、ピックアップされる社会問題に没入できる。
民放にも関わらず、ある程度は民衆に寄り添っているスティーブン・コルベアと違い、ついていけない視聴者をあっさり切り捨てる態度を強固に示しており、このクセに馴染めないと面白くもなんともないが、逆にこのノリにはまると、毎晩ペースで見たくなる魅力を、存分に放っている。




『Full Frontal with Samantha Bee』
<Official Website>
<Youtube Channel>
<twitter>
【知的度(I)】★★★
【低俗度(V)】★★★
【情報度(I)】★★★
【活性度(V)】★★☆

水曜の23:00~23:30までオンエア。
女性の司会者が少ないアメリカにおいて、現在では毎週水曜だけとはいえ、深夜トーク番組を敢行するサマンサ・ビー。
いかにもアメリカの、優柔不断なオスどもを叩きのめすストロング・ウーマンを地で行く彼女は、トークやネタ選びのクオリティも決して男性陣に劣らない。
だが。
女性らしさをほとんど感じられないため、感覚的には、屈強な態度と意見を持つ男性司会者がこの分野に新参してきた、との印象が強い。
見ていて退屈はしないが、この番組特有の色が、番組開始から3年経ったいまでも薄いため、批評家の点数が高いのにお客さん評価が低い、という、まあ正直な数字が、ちょっと番組名を検索しただけでも瞬時に浮かび上がってくる。
下ネタに対しておおらかすぎるのも、確かにビー自身が人生経験を大量に積んだ1969年生まれとは言え、男性視聴者にとっては根っこで抵抗が拭えないのでは、と思えなくもない。
まあ、女性らしさを出しすぎると、オフラ・ウィンフリーやエレン・デジェネラスらが展開する、お昼のトーク番組色が強くなるので、その辺は痛し痒しといったところか。
ぶっちゃけ批評が難しい番組なのもあって、アメリカのメディアも微妙にスルー気味なのも、やけにリアルに理解できてしまう。




『The Daily Show with Trevor Noah』
<Official Website>
<Youtube Channel>
<twitter>
【知的度(I)】★★★☆
【低俗度(V)】★★★★
【情報度(I)】★★★☆
【活性度(V)】★★★☆

月曜から木曜の23:00~23:30までオンエア。
2015年に、日本で言うところの高田文夫的存在ともいえる、芸人たちから神様扱いされている名司会者ジョン・スチュワート(John Stewart)の後を継いで「デイリー・ショー」司会者に指名されたのが、アフリカ系移民で30代前半の若手芸人、トレヴァー・ノア。
無論、ノアがスチュワートのポジションを継いだ直後は、経験値が違いすぎるため、散々な言われようだったし、私も当時の番組を興味本位で見たときは「厳しいなあこれは」と思ったものだ。
ところが、あれから4年経ったいま、トレヴァー・ノア及び番組スタッフの成長ぶりには、目を見張るものがあった。
番組開始から客を飽きさせず、テキパキと時事や社会問題を切り、インタビューでもゲストと熱いトークを交わしてくれる。
次々に繰り出されるギャグに関しては、まあジャブの連発というか、他の毒舌司会者たちと比べて重量感が無いので、民放じゃないんだからもっとエグいネタを!と思ってしまうが、番組全体のスピード感は抜群なので、そこまで気にはならない。
この数年で、様々な悪評に耐え、それを撥ね退けて、急成長を遂げた、今後も気になる存在だろう。
この調子で成長を続ければ、それこそ10年後には、上記のスティーブン・コルベアを脅かす存在になると思う(ちなみにノアとコルベアは、同じケーブル放送出身もあり、親密な関係だ)。




『Conan』
<Official Website>
<Youtube Channel>
<twitter>
【知的度(I)】★★★
【低俗度(V)】★★
【情報度(I)】★★★★
【活性度(V)】★★

月曜から木曜の23:00~23:30までオンエア。
2010年から続いている、老舗。
トーク番組の基本フォーマット(フリートークの後に有名人とのインタビュー)を頑なに沿っており、司会者であるコナン・オブライアンの抑制した語りもあって、突出した魅力はないものの、時事や社会問題を適度な毒で切る番組として、根強い人気を保っている。
私は彼の番組を滅多に見ないが、重大な事件が起こったときに、他のトーク番組司会者とのコメント比較として、チャンネルを合わせることが多い。
コナンは1963年生まれというのもあり、アメリカ社会を揺るがす事件発生時においては、「なるほど」と思わせる意見を、自然に発している。
決して華はないが、見せるところではきちんと見せる、いわゆる「燻し銀」的な魅力を持った番組だ。




『Last Week Tonight with John Oliver』
<Official Website>
<Youtube Channel>
<twitter>
【知的度(I)】★★★★★
【低俗度(V)】★★★★
【情報度(I)】★★★★★
【活性度(V)】★★★★★

日曜日の23:00~23:30だが、報道内容に応じて、放送時間が延長される。
テレビをほとんど見なくなった私でも、これだけは最新回をDVRに録画して、翌日に必ずチェックしている。
それほどまでにこの番組は、いま映像メディアで流されているトークショーのみならずあらゆる娯楽番組において、見せ方、情報密度、面白さ、中毒性が、段違いだから。
私の友人・知人たちも、他の番組は「maybe watch it later(まあ時間があるときに)」という扱いに対して、この番組は「I tape it(録画してでも見るわ)」と言うほど。
番組司会者のジョン・オリヴァはケンブリッジ大学傘下のクライスツ・カレッジ卒、つまりイギリスからの移民で、ゆえに難易度の高い単語を多用するが、発音が綺麗で丁寧なので、聞き取りは難しくないし、勉強になる。
民放では放送できない禁止用語を切り出すタイミングも、絶妙だ。
番組は前半の数分を短いニュースに割き、残りの20分前後で大きなトピックを取り上げ多数の資料を基にそれを掘り下げる(deep diveと呼ばれるやり方)、というフォーマットで構成されており、このメイン・トピックが放送終了後すぐに公式Youtubeチャンネルにアップされるから、有料チャンネルHBOでオンエアにも関わらず、一般層へもその存在を浸透できたのだ。
民放ではできないお笑い報道番組ということで、ギャグのひとつひとつがマニアックに練りこまれているぶん、危険度が高く、卑怯な大爆笑にすごい勢いで誘ってくれる。
番組スタッフの標的、もといネタの矛先は、アメリカ国内のみならず世界各国に向けられており、つい最近も、トルクメニスタン(Turkmenistan)の首相グルバングル・ベルディムハメドフ(Gurbanguly Berdimuhammedow)がどれだけ暴君か、という話を展開していたが、そもそも国自体の存在を私はよく知らなかったので(“地獄の門”には一度訪れてみたい)、大笑いさせられつつも非常に勉強になったものだ。
日本も時々ネタにされており(ゆるキャラを盛大にいじったアメリカのメディアは、おそらくこの番組が最速)、今年の春に取り上げられた、須崎市のゆるキャラ騒動のまとめは、ちぃたん☆の見所紹介の仕方から秀逸なオチに至るまで、最初から最後まで腹を抱えて笑ってしまった。
もともと体を張った芸で成りあがってきたひとだけに、確かチェチェン(Chechnya)の首相カディロフ(Ramzan Kadyrov)をバカにしまくっていたときに「暗殺されるまでおれはやつをネタにし続ける」と言っていた覚えがあるが、それだけ笑いに対して真剣で、だからこそ「どっから引っ張ってきたんだその証拠映像や失言の数々は」と見ている側を呆気に取らせるほど資料集めに時間をかけているし、茶化された相手が反論する隙をそう簡単に作らないのがすごい。
事実、石炭会社のマレー・エナジー(Murray Energy)がどれだけ従業員を酷使しているかを調べ上げ、社長を罵倒した回に対して、そこの社長がこの番組に対して名誉棄損の訴えを起こしたが、原告の証拠が不十分ということで裁判はあっさり却下されている。
本当に、近年まれにみる、語りどころの多い娯楽番組であり、時間が空いたときなんかはこの番組のYoutubeチャンネルにアクセスして、過去のトピックを漁り倒すほど、私や周囲のひとたちはこれにはまりまくっている。
ジョン・オリヴァは1977年生まれと、かなり若いが、いまアメリカで最も頼れる毒舌知識人なのは、間違いない。

# # # # #

以上が、代表的な番組の一覧。

ウィキペディアにはかなりの数が羅列されているが、下ネタや笑いのない番組も含まれているので、娯楽色の強いものだけに絞ってみた。

テレビ放映の受け取られ方自体がここ10年ぐらいでどんどん変わってきているので、それぞれの番組フォーマットが、それこそ来年にはどうなっているのか、予測できない。

どの番組もいずれは、オンエア・フォーマットをYoutubeに移していくような気がするが、面白い番組をスマホやタブレットなどで、時間を気にせず見れるようになれれば、それはそれで大歓迎だ。

(Stephen)