英会話のレッスンで3か月ぐらい前から、私を続けて選んでくれている生徒さんがいるが、この生徒さんは宿題もしっかりやってきて準備が万全だし、飲み込みが早く理解力も高い。

なので、短い時間の中で教科書に載ってないことも詰め込んで教えられるから、当然、伸びも早い。

この質問に対して自分の言葉を使って文章形式で答えなさい、という(日本語を一切使わない)宿題を、もう当たり前のようにこなせるレベルだ。

1日にどのぐらいの時間を英語の勉強に使ってるの、と聞けば、今は学生だし時間もあるから最低1時間は何らかの形で英語に触れている、と言う。

どこの国にも特定の事柄に、誰に何かを言われずとも、時間をかけて情熱を注ぐひとは幾らでもいるが、この生徒さんは英語そのものが好きなんだな、というのが余計な説明なしに伝わってくるから、教える側としても非常に楽しい。



たまたまレッスン時間が3分ほど余ったとき、学校の友達とは普段どんな会話をしてるの、と聞いてみたら、あと1年後に迫った東京五輪が、最近はよく挙がる話題になったそうだ。

日本が1964年以来、二度目のオリンピック開催地になるという現実が迫っているのだなあと、私も何となく感慨深くなってしまう。

オリンピックという国際競技も良く考えたら歴史の長いイベントで、遡れば最初の開催は1896年

4年に一度開催というルール制定の下、開催国を徐々に増やしていき、来年の東京で通算32回目。


(C) 2016 Washington Secrets

戦時中に3回ほど開催中止に遭っており、1936年のベルリン大会に至ってはヒトラーが大会組織委員会総裁、というところが、「平和の祭典」を行うこともままならない当時の世界情勢を物語っている。

冷戦終結後なのもあり、1992年のバルセロナ大会が真の意味での「平和の祭典」とのことで、オリンピックは競技大会以上に、ここ100年余りの人類の歩み、というのも決して言いすぎじゃない。



私の住むアメリカでもオリンピックの時期になると、NBCIOC(国際オリンピック委員会)と巧くビジネス展開をしているのもあって、メディア露出が一気に増える。

3年前のリオ大会のときは、男子競泳選手の花形だったライアン・ロクテの虚偽通報問題を始め、トーク番組の司会者たちを喜ばせる珍騒動がアメリカチームに目立った印象だが、この国がつくづくフェアだと思うのは、チームメイトの不祥事を隠蔽したりせず、しかも芸人たちがそれらを当たり前のように笑いのネタにしてしまうことで、その意味ではリオ大会は競技以外の面でも(別の意味で)スリリングだった覚えがある。



そういえばNoriko-sanから「アメリカの男子代表は2004年のアテネ大会が最悪だった、って言われてるんです。」と伺っていたのも思い出した。

確かに当時は、普通なら男子バスケ代表チームの報道に多くの時間が割かれるのがアメリカなのに、それが少なかった記憶がある。

こういうときのウィキペディアは便利なもので、バスケットボール男子アメリカ合衆国代表の軌跡を軽く調べてみたら、1936年のベルリン大会から参戦以来、金メダル15個、銀メダル1個、銅メダル2個の、驚異的な記録を残している。



何しろ1972年のミュンヘン大会まで常勝無敗、その大会にしてもソビエトのチームが審判に賄賂を渡しアメリカ・チームに勝利したとの疑惑が浮上していたので、銀メダルの授与を今でも拒否し続けているそうだ。("As a team - and that is the only way the International Olympic Committee will allow the silver medals to be awarded - the Americans today insist they want nothing to do with the silver medals."

1988年のソウル大会が銅メダルだったのは、若手中心でチームを編成したのが巧く作用しなかったためであり、以後の大会に向けた踏み台としての見方がなされているようで、実際1992年から2002年まで、アメリカの代表はそれこそドリームチームとまで呼ばれるほどの強さだった。


(C) 2017 Breacher Report

そこに大きな躓きを見せたのが、2004年のアテネ大会。

以下は数日前の「International Business Times」のコラムからだが、「NBA殿堂入り選手ですら2004年の五輪でのゲームは、思い出すのも忌まわしいほどの大災害だったと語る」との見出しからも分かるように、15年経った今でもNBA史上の汚点として蒸し返されるほどの惨敗、だったそうだ。("NBA Hall Of Famer Admits 2004 Olympic Basketball Debacle Still Haunts Him"

「Debacle」なんて単語はそう滅多に見られないが、敢えてそういう単語を使う辺りで、このアテネ大会の屈辱を忘れないという、アメリカの報道姿勢の強固さが感じられる。


(C) 2019 ESPN

実のところ、記録は正直なもので、アメリカはこのアテネ大会の初戦で、プエルトリコに73-92の大敗を喫していた

チーム・メンバーを見れば、今ではすっかり若い子たちのヒーローで、当時19歳だったレブロン・ジェームズまで居る、鉄壁の布陣

にも関わらず、初戦の大敗を覆すことが無く、アメリカのチームは早い段階で「金メダルは絶望的」との試合模様を重ねてしまっていた。


Youtubeにキーワード("athene olympic america puerto rico")を投げ込んだら、その問題の、アメリカ対プエルトリコの試合動画がきっちりアップされていたので、バスケ経験者には何がダメだったのかを知るにちょうどいいのではと思う。


(C) 2018 Amazon

「Basketball: A Love Story」(2018年9月18日刊行で、ESPNの人気ドキュメンタリー)の書籍版にも関わった、スポーツ・ライターのベテランとして名を馳せるジャッキー・マクミュラン(Jackie Macmullan)が行った、当時の関係者を集めた座談会と言う名の「反省会」口頭インタビューが、ESPNのサイトに文字起こしでアップされている。

https://www.espn.com/nba/story/_/id/27462338/what-did-just-watch-bronze-broke-usa-basketball

当時のアメリカ代表チームのヘッド・コーチのラリー・ブラウン(Larry Brown)が「We didn't get any practice time.」と発言していたり、レブロンが「We had great basketball players but we didn't have the structure, and I think that's part of why we finished third.」と正直なコメントを言ったりなど、アメリカチームの大敗をリアルタイムで見ているひとたちにとっては、貴重なコメントの数々に違いない。



アメリカのオリンピック代表男子チームは、日本のプレイヤーにとっても憧れなのは、バスケ素人の私にだって分かる。

そんな最強チームだって、世界を舞台にすれば、こうした失態を曝け出すことだってある。

そうした汚点をきちんと記録していくところが、今も変わらない、アメリカのジャーナリズムの強さでもあるし、一流だってコケるときは盛大にコケるという現実を、ここから掴み取っていくのも、面白いかもしれない。

まあそれこそ、冒頭で引き合いに出した賢い生徒さんなんかは、こういう話題をすぐに自分の会話のネタに取り入れられるぐらい、だろうから。

(Stephen)