参議院選挙の争点は何かとよく聞かれます。今回の争点は何なのでしょうか。

 安倍晋三総理大臣は6月1日の記者会見で「最大の争点はアベノミクスを力強く前に進めていくか、あるいは後戻りするか」と仰いました。加えて、消費税率10%への引き上げ時期を2017年4月から2年半先送りすることについて、「『再延期する』という私の判断はこれまでの約束と異なる『新しい判断』だ。『公約違反ではないか』との批判があることも真摯に受け止めている。この参議院選挙を通じて国民の信を問いたい」と言及されました。

一方、野党統一候補の方々は昨年成立した安全保障法制の廃止で共闘すると訴えられています。


 アベノミクス、消費増税、安全保障。どれも非常に重要な政策ですが、「自分の最大の関心事とは違う」と考えている方もいるはずです。私個人で言えば、地方の国会議員定数の削減に歯止めをかけるための憲法改正を世に問うべきだと考えています。100人いれば重視する政策は100種類あると言っても過言ではありません。また、重視する政策以外はすべて議員・政党の判断に任せろという訳にもいきません。政権を取った場合の政策全般の方針を選挙前に明らかにする必要があると思います。

 参院選は政権選択の選挙ではないから政策をぎちぎち詰めなくてもいいと言う人もいるかもしれません。しかし、政権は衆参両院でつくるものです。しかも、参院議員の任期は6年もあります。選ばれた人・政党が選挙直後に政権を担わなくても、6年の間に政権に入る可能性があります。政権に就けば原子力政策、税制改革、米軍普天間基地の移設問題、国会議員の定数削減など現実の課題が待ち受けています。やはり、選挙で国民に審判を受けるには、政権樹立を見据えて幅広い分野で統一した政策をつくり、国民に示しておかなければなりません。

 政府・自民党も政策を進める時に「そんなことを選挙で託していない」「そんな問題は争点になっていなかった」などと批判を浴びることがあります。しかし、たとえば2013年の前回参院選では自民党は外交・防衛や社会保障、教育など広範にわたる公約をまとめるとともに、356項目にわたる総合政策集「J—ファイル2013」を示しています。(その中で必要最小限度の自衛権に集団的自衛権の一部が含むという党の考えも明記されています。)選挙前に方針を明らかにしていても「選挙で問われていない」との指摘を受けます。我々には政策全般を説明していく不断の努力が求められています。

 今回の参議院選挙、すべての1人区で民進党と共産党が事実上共闘する野党統一候補が実現しました。しかし、2016年の通常国会では民進党(途中までは民主党)と共産党の賛否が割れた法律が25本ありました。待機児童の解消策を盛り込んだ「子ども子育て支援法」や原発の使用済み燃料の再処理に関する法律など重要法でも対応が別れました。自民党と民進党の差よりも、民進党と共産党の差の方が大きいのではと感じる場面も多々ありました。選挙で共闘するのであればよほど綿密に政策を擦り合わせなければならないのではないでしょうか。

 自民党や安倍総理は評価できない、嫌いだと言う方がいるのも承知しています。こうした声が野党統一候補をつくる原動力となったことは真摯に受け止めなければならないと思います。2009年の衆院選の時も「自民党政治を続けるかどうか」「政権交代できる政治を実現するかどうか」が争点だと喧伝され、自民党は政権を失いました。

 しかし、当時は政権交代が実現した後、与党となった民主党と社民党が普天間基地の辺野古移設を巡り激しく対立し、すぐに連立が崩れました。今回も反自民党、反安倍総理、反安全保障法制だけで一致し、他の政策は各候補の意見がバラバラ、「政権に就いてみないとどちらに進むのかは分からない」では同じ過ちを繰り返してしまうのではないでしょうか。お任せ民主主義からの脱却も忘れてはならない争点だと私は考えています。