9月18日、スコットランドで英国からの独立を問う住民投票が行われました。スコットランド住民は英国にとどまることを選択しましたが、ここまで接戦になるとは思いませんでした。

 私は2001年に英国留学した際、スコットランドを訪れました。宗教や言葉の訛り、食文化などイングランドとの違いを感じましたが、国や民族が違うと言われても正直ピンときませんでした。(当時のブレア首相、ブラウン財務相はスコットランド出身でした。)まさか十数年後にこのような独立論争になるとは想像していませんでした。

 時のブレア首相がスコットランドに広範な自治権を認めたことが独立心を高めるきっかけになったと言われています。それでも、最近までは独立を現実の問題として捉えている人は少なかったようです。キャメロン英国首相も十分否決できると予想し、「独立論に終止符を打つために住民投票の実施を決めた」との解説も聞きました。

 しかし、投票日が近付くにつれて賛成派が勢いを増し、一時は世論調査で賛成が反対を上回りました。楽観視していたウェストミンスター(英国国会)の与野党幹部も慌ててスコットランドに入り、独立反対を訴えました。私は投票の一週間ほど前にロンドンを訪れましたが、多くの方が「どうなるか分からない」とおっしゃっていました。まさに薄氷を履むが如き住民投票の結果、辛くも英国は維持されることになりました。

 今回の住民投票では若い世代ほど独立賛成に投票したと言われています。英国政府が約束した大幅な自治権拡大がスコットランドのアイデンティティーをさらに高めるかもしれません。キャメロン首相が当初描いた『一件落着』には程遠く、今後も独立論がくすぶり続けるのではないでしょうか。

 今回の問題は他国にも影響を与えています。私が今夏、訪問したデンマーク施政下のグリーンランドでも独立論が出ています。現在はデンマーク本土からの多額の補助金で自治政府を運営していますが、お目にかかったハモン自治政府首相(48)は「私が生きている間にグリーンランドの独立を見たい」とおっしゃっていました。今は経済的にデンマークに依存していますが、北極圏の資源開発が進めば独立が視野に入ってくるとの見方でした。自治政府の方々からも同趣旨の話を聞きました。

 デンマークでは1944年にアイスランドが完全な独立を果たしています。さらにグリーンランドだけでなく、フェロー諸島も将来の独立を窺っています。スペインにおいては、カタルーニャ州が分離・独立の是非を問う住民投票の州法を成立させました。この動きに対し、スペイン政府は「違憲」として憲法裁判所に提訴し、対立が激化しています。米国でも州の独立を望む声が増えているとの報道があります。

 各国で共通しているのは地域の自我に加え、経済問題などでの中央政府の不満が高まっていることです。「政府は我々の方を向いていない」「自分達のことを自分達で決められれば公正な社会になる」などといった思いがある
ようです。今後も独立論争は各地で起こってくるでしょうし、これまでも国境が一定であったわけではありません。

 学生の頃、ユーゴスラビアの分裂に衝撃を覚えました。10年単位で世界地図を見ていくと、国境とは如何に暫定的なものなのかと感じざるを得ません。そうであったとしても、住民の意思、民族の自治を御旗に独立の光の部分だけを強調して、国家分裂を進めていっていいのでしょうか。

 私も日本の国内政策では分権型社会を掲げ、「自分達の地域のことは自分達で決められる制度にすべきだ」と主張しています。一方で、分権に当たっては財源保障機能と財源調整機能を充実させられるかがカギだとも指摘してきました。国家として国民に最低限のサービスを提供できるように税収を融通し合うことは必要不可欠です。しかし、分離・独立してしまえば、首都の税収を地方に配分するわけにはいきません。

 加えて、小国に分裂していけば、国家のスケールメリットがなくなり、経済・財政的にはマイナスです。経済規模やハードパワーが小さくなれば外交交渉にも不利でしょう。住民投票では民族意識や地域のアイデンティティーが強調されるあまり、デメリットを冷静に吟味する空気が生まれづらいように感じます。

 どんな国でも多かれ少なかれ政治・政府に不満はあると思います。政府・与党はその解消に努めなければなりませんし、野党は厳しく監視する必要があります。しかし、政治不信を抱える人達の感情に訴え、独立論争にまで踏み込むかは、よほど慎重に考えなければならないのではないでしょうか。

 民族の自立、自己決定権は尊重されるべきです。加えて、住民の自治、国家の有り様が国民の福祉向上につながるかも検討しなければならないと考えています。