きょう(4月25日)、参議院選挙の一票の格差をめぐり、人口の少ない県を隣県と「合区」する制度改正案が示されました。自民党内での議論はこれからですが、その問題点を主張していくつもりです。以前のブログ(2月12日付)でも取り上げましたが、改めて私が今回の合区案に賛成できない理由を書きたいと思います。


一、人口比例を優先なら衆参が同質化


 日本の国会は衆議院と参議院の二院制です。二院とも直接選挙の国は多くありません。二院とも選挙で選ぶのであれば、制度を工夫してより多様な民意を吸い上げられるようにしなければなりません。しかし、今回の案のように人口比較を優先し、自治体の境界にも考慮しないのであれば、二院制の意味がなくなります。

 衆議院は人口の均衡を重視し、市や区を分断した選挙区までつくっています。一方、参議院の選挙区は、人口の格差はありながらも都道府県単位を維持してきました。これは衆議院が国民としての「個人」の声を反映し、参議院が都道府県民としての「地域」の声を届けるという意味合いがあるためだと考えています。

 朝日新聞の大野寛人論説主幹は「人はだれだって、あるときは『私』として、あるときは『私たち』として政治や社会に関わったり、不満を感じたりするのではないだろうか」(2013年4月21日朝刊)と論じています。人間誰しも持っている「私」(個人)と「私たち」(集団)という2つの顔に目を向けたのが現行の衆参の選挙制度だと思います。どちらも人口比例で選挙区をつくるなら衆参両院は同質化し、日本国憲法が二院制を明記している意義が揺らぎます。


二、人口比と実際の投票価値の相違


 一票の格差が論じられる時は人口で比較されます。しかし、人口比で格差を是正すれば、投票機会の平等にはなりますが、投票価値の平等とイコールにはなりません。投票しなかった人の投票価値まで考慮したことになります。

 ドイツでは人口ではなく、直近の投票者数をもとに選挙区割りを是正しているとのことです。日本でも人口で一票の格差を論じるのではなく、投票者数で一票の格差を考えるべきだと思います。

一票の格差を問題視する人の多くは都会の方です。しかし、都会は棄権される方が非常に多いのが現実ですし、投票価値が低いから投票に行かないとはとても思えません。一方で、人口減に苦しむ田舎では、地方が抱える問題を何とかしてほしいと、多くの方が投票所に足を運ばれています。一票の格差訴訟を起こされている方は、投票に行かない都会の方の思いも本当に代弁されているのでしょうか。

 投票者数で定数不均衡を是正することで、万が一、投票率の低い選挙区の方の不満が高まれば、投票率を上げて定数増を実現しようという行動につながるはずです。また、人口の少ない地域は高い投票率を維持しなければ我々の代表が出せなくなると思うはずで、田舎でも都会でも投票率向上へのインセンティブになります。


三、都道府県を前提とした国のあり方と矛盾


 公立学校、国民健康保険、地方税、警察(国家公安委員会)、地方裁判所など住民の生活にかかわる公的事務は県境をまたがず、都道府県を前提とした国・地方の制度(国のあり方)となっています。国民主権を保障する選挙制度だけが、都道府県の枠組みを考慮しないでいいのでしょうか。数合わせ的な発想ではなく、今後の国のあり方をどうするかを考えて、選挙制度はつくるべきです。

国のあり方をめぐっては、政府・与党では道州制を導入すべきだとの議論もありますし、自民党の選挙公約にも盛り込まれています。今回の「合区」は道州制の議論ともまったく整合性がありません。山梨県と長野県を合区する案となっていますが、道州制のどの案でも山梨県と長野県は別の州に位置付けられています。県境どころか、「州境」すら無視した選挙制度となっています。国会議員を選ぶ制度は、国の仕組みをどうするかという議論と平仄を合わせる必要があると考えます。