昨日、無事に日本に帰りました。

 

 

成田で最初に食べたのは「中東の食事が合わなくて痩せたので、カップ麺を持っていく選手が多かった」と取材で答えてくれた選手がいて、それに基づいて持参していたが、自分はいたって中東の料理食べれましたので、そのまま手つかずだった「どん兵衛」でした。

 

 

「どん兵衛」美味い。時間があったら中東の砂漠で食べてみたかった。

 

 

いまは愛媛に戻り、特に時差も関係なく日常に戻っている感じです。

 

 

長旅のあとさすがにすぐに漫画を描く気にはなれず、今日はせっかくなのでカタールでの出来事を書き記しておこうと思います。

 

 

クアラルンプール経由

 

マレーシア航空の事故防止アナウンスは踊りながらやる

 

 

ことの始まりは9月の下旬ごろ。

 

 

ワールドカップの時期が迫ってきているが、別段行くという話にはなっておらず日々のうのうと漫画ばかり描いて暮らしていた。

 

 

ロシアワールドカップはひっくり返るくらい楽しかったが、海外に行き慣れてないし、中東などもうわけわからんし、今回は疫病も挟んでいて小学館も基本海外出張禁止で、担当の今野氏とも、

 

「ないよね」

 

今野「ないですよねえ」

 

「ないよねー」

 

と話していた。

 

 

 

これを覆したのが、うちの奥さんの次のひと言だった。

 

 

妻「非日常を見たいといつも言ってるくせに、何を言ってるんだ。中東なんてワールドカップ以外で行くことないでしょう。現地でしか見れないものがあるでしょう。作品のためを考えたら、行けるのに行かないなんて意味がわからない」

 

 

確かにそのとおりだな、でもそうは言ってもなと恐る恐る小学館に聞き返したらば、急転直下、あっという間に行く手はずになった。

 

 

 

横にチラッと映ってる、トランジェット中にマレーシアで食べたカレーがどえらい美味かった。普段甘くて飲めないコーラも長旅には最高

 

マレーシア空港のスターバックス

 

マレーシアの料理。普通に美味しかったです!ただ全体的に辛いので、喉が渇きます

 

 

 

今回も4年前のロシアと同様、僕と今野氏、そして前編集長のT氏と3人のチーム。

 

 

僕と今野氏は海外に行き慣れてないけどTさんは98年フランス大会から連続参加記録の猛者で、実際すごく頼りになりました。僕らはただニコニコしながらついて行くだけ。

 

 

直前でしたので直行便はとっくに満席。マレーシア経由。

 

 

マレーシアは空港だけでしたけど、とてもいい雰囲気で現地の空港スタッフみんな優しかったです。マレーシアの街も見てみたかった。というのも自分のスケジュール的に2ー3日が限界で、ブワーっと行くしかないのです。

 

 

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まる1日の飛行機旅の果てに、カタールに到着。深夜近くでも街中が黄金のように輝いていてびっくりしました。

 

空港もワールドカップ一色。今回のキャラクターはお化け?浮いてて実体がない。

 

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空港で集団で歌いながら行進する人たちが次々現れたが、全てメキシコ人だった。

 

お化け?

 

街もワールドカップ一色。

 

 

空港で「トーコさん」という日本人女性が待っていて、現地のコーディネートをしてくれるという。

 

 

トーコさんは英語フランス語に堪能ということでしたが、いつもはフランスに住んでいて急きょこの日のために初めてカタール入りしてくれたということ。

 

 

Tさんもいるし、ロシアもコーディネーターいなかったので、正直このときは「そうか、多分助かるんだろうなあ」くらいのイメージだったのですが。

 

 

だが。

 

 

このトーコさんがチームアオアシカタールで金銀飛車角、三面六臂(さんめんろっぴ)の存在感を見せるとは、空港に降りたばかりの私は知る由もない。

 

 

 

 

翌日。カタールは日差しは強いがずっと涼しい風が吹いていて、気候的には心地よかった。また、中東の香りなのか、かすかなお香かわからないが、街中から「いい香り」がした。

 

 

はっきりした香りでないので人工的なものではない、乾いた、フワッとした、中東の匂い。字面では無理だ。嗅いできてくれ。

 

 

昼食はトーコさんが見つけておいてくれたカフェテリアでランチ。トーコさんいわく「観光客でなく、現地の、しかも女性に評判良いお店に入るのがいい」とのこと。

 

じっさい、入ったお店すごく美味しかった!

クセなく現地の料理を味わえました!ナンみたいなのに撒いて食べる。

 

 

 

そのあと。アオアシの国際大会の舞台がカタール(これはほぼ偶然。合わせたわけではない)なので、ある資料を手に入れに行く。だからちゃんと取材旅行です。「作者取材のためー」のあの一文を信用してください。

 

 

世界規模で展開するスターバックスは、その国でしか買えないマグカップが売られてる。土産に頼まれてたので、マレーシアのとも併せてゲット。

 

 

 

 

カタールでもスターバックス。奥の小さなテラスではここでもパブリックビューイング。サウジアラビアーアルゼンチン戦でした。この時点ではアルゼンチンが1点リード。

 

 

そのあとお土産を買うため市場に入ると、大量の多国籍サポーターが。

 

多国籍リポーター。

 

あふれかえる。

 

 

お土産をむさぼるように買いあさる。自分の職場は女性の方がいま多いので、中東のショールを大量に買い込む必要があった。他にも、世話になった方々のために何かを持って帰る必要があった。税関を突破できればワンチャン、売りさばき一攫千金も夢見ていた。正直なんでもよかった。

 

 

すると絶好のカモと思ったのだろう。店員のおじさんが頼んでもないのにターバンを私に撒き出した。

 

されるがまま。

 

 

え、俺これ買わなきゃいけないのか?

 

 

撒かれたので買うしかなかった。

土産屋のおじさんたちが次々襲いかかってくる。

 

 

それを助けてくれたのがトーコさんだった。

 

 

トーコさんがつきっきりで通訳してくれるうえ、女性目線で女性が喜びそうなショールを選んでいった。私が選ぶおぞましいデザインのショールは次々打ち捨てられていった。

 

 

 

絨毯屋のこのおじさんが特に機嫌が良く、「コンニチワプライス」というトイチの闇金のようなネーミングで全身ににこの絨毯の質の良さをアピールする。サウジアラビア人のおじさん。なんでこんなに機嫌が良いのか?

 

 

 

 

理由はすぐ判明した。市場の一角で大騒ぎするサウジアラビアサポーター。輪になって踊る。買い物してる間にサウジアラビアがアルゼンチンを破っていたのだ。

 

 

 

カタールの街は、ディズニーランドのようなイメージでした。街全体で繁栄を表しているような、アミューズメントパークのような。ワールドカップを盛り上げ、カタールを盛り上げ、神々しさを押し出していました。

 

 

逆に言うと、カタール本来の歴史や、一般市民の生活の部分にはほとんど触れる機会がありませんでした。(出稼ぎの方が多く、タクシーの運転手さんもバングラデシュやネパールからの出稼ぎで、確実にカタールの人だとわかる人に会えなかった)。そこは残念。

 

 

 

決戦の朝。

 

 

 

カタール2日目。

 

 

16時から日本ードイツ戦。そして今大会唯一観戦するカード。

 

 

この試合があったからというのはもちろんですが、この日の午前中はある大きな出会いがあって(それは別の機会にお知らせしますが)、この日カタール2日目は人生においてももっとも深い、24時間内で起こったとは思えない出来事の連続でした。

 

 

 

午前中の、その人と会う約束が終わり、会場に向けて走る。

 

 

 

渋滞のため昼食を食べる時間ないと判断したトーコさんが近くのスーパーでつまめる系のものを買い込んでいてくれそれをタクシー内で食べながら向かう。トーコサン…!

 

 

これがなければワシら飲まず食わずで会場入りしないといけないとこだった。トーコサン!

 

 

日本ードイツ戦の会場。ワールドカップの雰囲気はバシバシと伝わる。

 

 

 

トーコさんは観戦せず、試合が終わるまで近くのお店で待機してくれるという。申し訳ない。

 

 

チケットを出し、ハヤカード(あんまり重要視されてなかった)を出し、無事に入場する。僕と今野さん、Tさんが無事に会場入りするのを見届けたあと、トーコさんは去っていった。トーコさんありがとう。

 

 

しかしここで事件が。

 

 

入場したが、荷物検査のところで黒服の警備員に「入れない」と言われる。

 

 

 

キョトンとする私と今野氏。

 

 

な、なぜ?

 

 

「その一眼レフカメラは(おそらく武器になるから)持ったままだと入場できない。撮影は小型カメラかスマホのみ。一度外に出てセンターに預けてきてからまた来てくれ。試合終了2時間以内に来てくれたら返す」

 

 

という主旨のやり取りがあり、呆然とする。

 

 

え、これ聞いてた?聞いてないけど。

 

 

みなさん気をつけてください。一眼レフ持って入れないそうです…

 

 

他にいた小学館の社員さんたち(今野氏とT氏とは別の人)も、一眼レフを持ってきていて同じように一度追い出されていた。(警備員の人たちは黒服で一見怖そうですが、「決まりやから…」という感じですまなさそうに言ってきました)

 

 

がっかりする。事前に知ってたら、デジタルカメラを用意してきたのに…

 

 

しかしそれよりも、ここまでのカタールの資料を全て撮影したカメラを異国に預けるには勇気がいる…(もちろん大丈夫だとは思うんですが)。困っていると。

 

 

トーコさん登場。

 

 

社員さんのぶんのカメラも含めて預かってくれる。

 

 

警備員に事情を説明し、荷物預けてないのに、預けた人向けの再入場口から僕らを入場させてくれた。

 

対応した警備員もここはロシアよりおおらかだったが、それより、トーコサン…!!!

 

 

なのでここからはスマホの写真です。

 

グッズ販売。お酒は飲まずコーラを頼む。

 

お化け買った。

 

 

 

現地でしか味わえない空気。ワールドカップは特別なものです。ボールひとつでここまでの人を突き動かす。サッカーはすごいですね。

 

 

 

さて、日本ードイツ戦です。

 

 

上の写真は前半、日本がリードされてる時点の会場の雰囲気です。自分は仕事も兼ねていたので撮る気力がある。

 

 

周りの日本人サポーターはみんな水を打ったように静まり返っていました。

 

おそらく会場のみんな気持ちとしては、日本でテレビで観ている人たちと変わらなかったと思います。

 

 

各国の代表のサッカーまでチェックしてない自分にとって、ドイツ代表のサッカーはとんでもなかったです。強く、速く、正確で、美しく、それは映像で見るよりも魔物のような迫力でフィールドを支配し、客席にまで波勢し、日本人は絶望感に襲われました。

 

 

それは日本で観るのも、現地も同じですが、会場のここまで来てそれを見せつけられたみんなは、もう言葉がなかったです。悪魔のようにドイツは強かったです。平然とやっているように見えたそれが、ひたすら絶望感と直結したのです。

 

 

 

後半、システム変更したのはわかりました。

 

 

3バック(実質5バックかな?)。サッカーのことは文字でなく漫画で描くのが仕事なので、多くは書かないでおこうと思うのですが、システム変更したことでドイツのフォーメーションとズレが生じてギャップ(穴)ができました。

 

 

ただギャップができるのは、日本が戦い方を変えたので当たり前なのですが、不思議なことにドイツがその明らかなギャップを修正しないまま試合が進行しました。

 

 

日本に、何度も危ないところに平然とパスを通されてるのに、放置するドイツを見て「え?これひょっとしたら、このままなら、いけるんじゃないか?」と感じ始めました。多分現地のサポーターも同じような、フワッとしたワクワクが沸き始めたと思います。雰囲気は生き物のように変化していくのですが、異様な高揚感が、静かに漂うようになりました。

 

 

ドイツが前半上手くいきすぎたため、日本の戦い方に合わせるのを嫌がったとか、日本が前半途中から変えず後半から変えたから上手くいったとか、もちろん後でなんとでも言えるのですが、それはのちのちだから言えることで。

 

 

会場のあの雰囲気。流れ。人々の感情が交錯し、少しずつそこに向かっていくのは、「そういう流れだった」としか言いようがない空気でした。

 

 

本当に何が起こったのかは、あのフィールドに出て戦った32人の選手にしかわからず、それ以外は憶測でしかありません。

 

 

とにかく日本人サポーターは活力を取り戻し、声が枯れるまで応援しました。逆にドイツサポーターは沈黙していきました。徐々に運命はその結果に向かっていきました。

 

 

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前でずっと声を出してた日本人のおじさんと、となりの今野氏と、抱き合って揉みくちゃになりながら、喜びました。周りの外国人の観客が盛んに握手を求めてきました。考え得る最良の結果をこの目で見ました。日本はドイツに勝ちました。

 

 

 

 

これを書いてる時点でまだグループリーグ突破もまだ決めてないですし、あれから3日しか経ってないのに、僕は普通に日本で仕事を再開し、日常に戻ろうとしています。

 

 

 

あの日の狂熱の1勝が何をもたらすか、どれほど大きな価値があるか。ワールドカップが終わり、時間が経ってテレビが伝えなくなっても、確かに残り、さらに時間をかけて、効いてくるものだと思います。それぐらい大きなものでした。

 

 

トーコさんと合流し、トンボ帰りの僕らはホテルに戻り、チェックアウトを済ませると、深夜の帰国便に乗るために空港へ向かいました。

 

 

何もかも夢心地で、カタールを去ることになりました。

 

 

 

最後に。この滞在記でも何度も名前が出てきたコーディネーターのトーコさん。僕らが試合を観てる最中に、前日に行った資料がある場所に、もう少し資料を手に入れられないか再度出向いていたそうです。

 

 

トーコさん…!!

 

 

試合自体も楽しかったのですが、この一人のプロフェッショナルと出会えて、カタールの思い出はよりいっそう映えることになりました。

 

 

Tさんも相変わらずリーダー気質で頼りになりました。今野氏も頑張っていました。

 

 

「チームアオアシカタール」は4人で、無事に乗り切りました。トーコさんはフランスに、僕らは日本に帰ります。最後に4人で食事をした時「モロッコの案内ならなお任せてほしい。人が生きてる土地だ」と言われて、モロッコに行ってみたくなりました。

 

 

空港でトーコさんが「頑張ろうと思える、素晴らしいチームでした」と言ってくれました。みんなで握手をして、そこで別れました。


 

 

これが急きょ決まったカタール遠征でのたった2、3日の出来事です。

 

 

漫画を描かないこんなときだけ、文章でいっぱい書きました。

 

 

今夜から仕事を再開します。全ては夢のよう。

 

 

ワールドカップは、素晴らしい。

 

 

長文に付き合っていただき、ありがとうございました。

 

 

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