©️ジョージ朝倉/祥伝社FEEL COMICS
ジョージ朝倉先生の「ピースオブケイク」という漫画をご存知でしょうか。
僕はこの作品を「完璧な作品」だと思っています。いつ読んでもとにかく完璧だという感想しかないのです。
僕の人生に影響を与えた漫画として「ドラゴンボール」や「ハイスクール奇面組」「YAWARA!」といかにも男が好きそうな漫画が並ぶなか、この全5巻(番外編を加えたら6巻)で完結するレディースコミック「ピースオブケイク」が燦然と輝いて入っているのです。
この漫画に出会ったのは漫画家志望であった20代でした。
漫画家志望であるということは上記の男の子の漫画を読んでた純粋無垢な漫画少年の僕はとっくに死んでゴミのように腐っており、どんな漫画を読むにせよ、なんか勉強の目というか穿った目でしか漫画を読めなくなってるわけで、そんなつまらない私に成り下がっていた私にこの漫画は突如襲いかかってきました。
バイト先の後輩が「よいしょー」と貸してくれたそいつは、その当時4巻までしか出てなかったのですが、とにかく僕を殺しました。
既視感などカケラも存在せず、完璧な構成、キャラクター、語彙力、世界観全てでもって、うだつのあがらん漫画家志望者だった僕を地面に叩き潰しました。
同時にジョージ朝倉先生という悪魔のような漫画家がいることをここで初めて知りました。
4巻までであまりにも完璧だったので、当然5巻が読みたいわけですが出てないので、ジョージ朝倉先生という人物の他の作品を読むしかないわけです。
「ハッピー・エンド」
「カラオケ・バカ一代」
「水蜜桃の夜」
「バラが咲いた」
「少年少女ロマンス」
お金がなかったので短い作品しか買えず、そのどれもがとんでもないもので、僕は無事にジョージ先生の虜になったのです。
しかしそれでも「ピースオブケイク」なのです。他の作品もすごいけれど、とにかく「ピースオブケイク」が「ピースオブケイク」が
どんな物語かというと、主人公は20代中ごろの志乃(しの)という女性です。見た目も可愛くて、もてない訳でもないのだけれど非常に恋愛が不得意なかたです。どうしようもない形で長年の彼氏に振られて、仕事も辞めて、自暴自棄の頭でふらふらと木造アパートで新生活を始めます。
その隣に住んでる男性が偶然自分のバイト先のレンタルビデオ店長さんでした。髭の似合う年上のこの男性に、志乃は一目惚れをするのです。(ちなみに僕はこの店長さんが大好きです)
しかし店長さんは、黒髪の目が座った怪しい女(あかり)と同棲しており、店長さんも誠実な人なので、志乃の好意をきっぱりと断ります。
これだけだと普通の三角関係なのですが、謎の女あかりは店長も知らない「ある秘密」を持っていて、急に店長のもとからいなくなってしまう。
基本は志乃の視点で話が進むため、普通の片思いの話なのですが、時々入るあかり目線から見るとミステリーとも取れる全く別の物語になっており…
いや読んでくださいよ。読めばいい。
ここで書けるわけがない。
5巻が完結で、その発売を待ちに待った僕は、「いやこんな完璧な作品が、最後まで完璧なわけがない。何か腑に落ちずに終わってしまうぞい。そんな漫画今までいくつも見て…」
と震える手で手に取ったら、最後まで…。大感動の決着を瞳孔にこねくり入れられて、最初から最後まで非の打ち所がない稀有な作品として昇華して今に至ります。
最終5巻の時点で、謎の女あかりの全ての秘密は解消されておらず、「もし続編が出るとしたら、あかり目線で「秘密」の完全な解消をやるだろう。でも、それがなくても、ここで終わっても本当に素晴らしい作品だった。というか秘密は秘密のままでいい」と思っていました。事実、何年後かに番外編として「6巻目」が発売されましたが、僕はそれを買ったままずっと読めませんでした。
2年後くらいに意を決して読みました。
素晴らしかった…けれど、終わった。
志乃と店長とあかりの、ずっと続いてほしい三角関係は、僕は庭のクワズイモで良いのであの物語の登場人物になって見届けたかったあの三角関係は、本当に終わってしまった…
同じスピリッツでジョージ朝倉先生が連載される(「ダンスダンスダンスール」)と聞いたときの興奮は、それはもう計り知れないでしょう。
「お会いしたい。会ってこの思いを伝えたい。そして図々しくもピースオブケイクのあの3人の絵を描いてもらいたい…あほうのふりをすれば哀れに思って描いてくれないだろうか…」
ただしジョージ朝倉先生は滅多に公の場に顔を出さず、僕も愛媛で描いてるもので上京の機会も限られており、「アオアシ」と「ダンスダンスダンスール」がスピリッツ誌上で一緒になってから9年経ってもお会いできる機会はありませんでした。
それが、ついに去年の謝恩会で実現致しました。
うだつのあがらない漫画家志望だった当時の僕に、「世の中にはあなたの知らない素晴らしい漫画がいっぱいあるの」と魔王のような力で示してくださったジョージ朝倉先生。
何十年も経ち、実際お会いしたその姿はとても美しく優しく、「アオアシ」の読者でいてくださったこともありここに誠実に応えていただきました。
また、どなたかは存じませんが、この魔王の力を必死に抑え込みながら美しい世界を一緒に構築した「ピースオブケイク」の担当編集様にも重ねて御礼申し上げます。
ジョージ朝倉先生。素晴らしい作品を生み出してくださって、本当に本当にありがとうございました。
これからもずっと応援しております。