コスモスの一枚

埼玉県飯能市、2006年9月24日
Je t'offrirai une fleur
きみに花を贈ろう
とても綺麗で可愛いやつを
きみに花を贈ろう
野に咲く可憐なやつを
きみに花を贈ろう
場違いなとこで声なきやつを
きみに花を贈ろう
どこかへ飛びたがっているやつを
きみに花を贈ろう
今の美しさを知らずにいるやつを
きみに花を贈ろう
何気ないのは僕がみてないだけの
きみに花を贈ろう
いつかは摘まれるだろう
きみに花を贈ろう
きっと贈り返されるだろう
きみに花を贈ろう
今は秋
きみに花を贈ろう
断ってはいけないよ
きみに花を贈ろう
きみは花瓶を持ってない
きみに花を贈ろう
それはもう一度、きみと話すため
蛾の一枚

山梨県河口湖町、2006年9月12日
秋を先取りした寒い夜
一匹の蛾が光に誘われて飛んできた
光に魅せられた彼女
迷いこんだは紙コップのビールの中
酔え
酔うのだ
僕は美徳に魅せられて
酔おうとするもそれはかなわず
酔え
酔うのだ
夜の蝶になって
酔ったままふらふら飛ぶ
そんな夢を見たの
ゴミ箱の一枚

日本海上 新日本海フェリー小樽~新潟間、2006年8月27日
休日の都会を歩いていてふと立ち止まる。
大小美醜老若さまざまな雑踏の中でふと立ち止まる。
これだけごちゃごちゃといる人の中で、
僕と同じくらい何も考えずに生きている人はいるのだろうか。
何にも興味が無い。
好きなものが無い。
嫌いなものが無い。
何にも無いこの身体なのになぜか臓器が詰まってる。
自己の存在を証明してくれる他人の無心性が
今日は僕自身に降りかかり、
もの言わぬ、動けぬ砂漠の一粒になって口を乾かす。
僕の寝床をどこにしよう。
燃えるごみには入らない。
心が燃えていないから。
空きカン入れには入らない。
誰にものまれはしないから。
くず入れには入らない。
本当のくずが入らなくなるから。
じゃあ、どこに入ればいいのだろう。
空虚に生きているのに、どこか収まる場所を探してしまう。
ついぞ、空虚の中に居場所をみつけた。
エビの一枚

北海道羅臼、2006年8月24日
素直になろう。
なれればいいのに。
私はエビね。
反ってばかりいる。
キチンの殻が弱気を隠し、
進むとなれば後ろ向き。
私はエビね。
反ってばかりいる。
つらいことなんてないの。
丹頂の一枚

東京都豊島区池袋、2006年8月5日
「たんちょう」という名前は
頭のてっぺんに差した紅色と、
やわらかに膨らんだからだの白い色から。
本家の「たんちょう」は
早朝、息を白く弾ませて氷上を躍る演技の、
もとい縁起のよいツルの鳥。
ファインダーのこちらにいるのは、
日々これ「たんちょう」に過ごす哀れな20歳。
彼らとて「たんちょう」な毎日。
僕もそう、「たんちょう」を生きて愛す。
ホネの一枚

福島県いわき市、2005年8月25日
おれが海を泳いでたころは、
そりゃあスゲエ恐れられたもんさ。
魚どもはおれを避けたし、
軟体動物は縮こまった。
アンモナイトは ほどけちまい、
三葉虫はひっくり返ったもんさ。
ぐうぜん食べたサバが悪かった。
腹を下してポックリさ。
まだ豚が海に入る前の話だった。
いつのまにかおれはこんなになって、
こんな風に吊られてる。
おまえの前じゃおれはほね。
ただのほね。
おまえもいつかただのほね。
誰かの前じゃただのほね。
ハートの一枚

埼玉県日高市、2005年5月21日
その小さな手を握ると
こころがどきどきする。
その髪の香りが
僕のこころをどきどきさせる。
どきどきするこころがほんのりと紅潮する。
野の花もどきどきしている。
その桃色を見て、
僕は彼女の頬の色を思い出すのだ。
小さくて高い、その真ん中のころに。
ちょうちんの一枚

埼玉県日高市中の田公園、2006年8月5日
お祭りが終わってみんな帰った。
浴衣を着た女の子も、お面をかぶった男の子も。
あんず飴で結ばれた恋人たちも。
まつりのあと。
緊張していたちょうちんがぽとりと落ちた。
「こんなときしか人前に出ないから疲れたよ」
ちょうちんはだらしなくくつろいだ。
「どうせ僕の灯は電熱線。スイッチひとつでみな消えちまう」
それでもその光は暖かくてやわらかい気持ちになるよ、と言うと
ちょうちんは少し照れた。
まわりがすこし明るくなった。
一瞬で真っ暗になった。
プラグがコンセントから引き抜かれた。
あとのまつり。
蜘蛛の一枚

埼玉県日高市巾着田、2005年12月3日
冬の日。
ただでさえ寒いのに、
クモが冷えきった鉄の上でじっとしていた。
ファインダーごしに出会った目は
とても輝いていて、さながら宝石のよう。
8粒のヒスイが冷たい空気をにらんだ。
ひとはみな、冬になると夏が恋しく
夏になると冬を愛でる。
中庸な季節は記憶にない。
クモはしばらくののち、
どこかへ行ってしまった。
僕も寒くて急いで家に帰った。
そんな冬の日を真夏に思い出した。
幼馴染みの一枚

東京都神楽坂、2005年4月15日
仲良しふたり。
背の高さも、声の高さも好きな食べ物もさほど変わらないふたり。
ふたりはそれとなく好き合っている。
だけど言葉にはなりません。
恋愛感情という言葉を知らないから。
そのうち男の子には好きな女の子ができた。
いつも横にいるあの子じゃない別の子を。
ふたりにはちょっと距離ができた。
ふたりが学生服を着だすころ、
女の子は恋をした。
ひとつ上の先輩に。
男の子はそのころ
女の子が横にいないことに気付き始めた。
いつのまにか男の子は
その子に恋をしていたことに気付き始めた。
だけど女の子はもういつもとなりにいた男の子と
一緒に帰ることはありません。
お互いの家に遊びに行くことも無くなりました。
男の子は勇気を欲しがりました。
好きだと言うことのできる勇気を。
それは結局手に入らずじまい。
桜が咲く頃、ふたりは卒業して
女の子はこの街から引っ越しました。
もう言葉を交わすことはありません。
10年前のふたりは一緒に、
ただトンネルの先だけを目指していたのに。
誰にでもある最初の恋。
誰でもが大切に胸の奥にしまってあるもの。
たまに取り出すとちょっとちくりとくるもの。
