大阪アジアン映画祭2作目はこちら。イーキン・チェン主演と聞いたもので。
前情報何もなしで見に行きましたが、こんなに丁寧に紡がれたラブストーリーはぜひぜひ日本中の映画館で公開してほしい!本当に素敵な作品でした。
日本の高知でロケをされているんですが、商店街で自転車に乗る様子をこんなに美しく収めた映画ってかつて見たことがないと思いました。日本の方が作る映画とはまたテイストが異なる美しさ。どこか懐かしくも美しい映像の色合い。日本の普通の商店街がとても美しかった。電車で海が見えるシーンもあるんですが、そのシーンも抜群にきれいでした。背景の景色がきちんと入りながらも、それでいて全く邪魔をしてないあの塩梅。なんでしょうね。ああいうのをセンスというのでしょうか。とにかく切り取られる普通の少し田舎の日本の姿がどれも美しかった。
しかし、今回のイーキン・チェンはどっちかといえばかっこよくない役柄ですが、でもなんか憎めなくてやっぱりかっこいいんですよね。佇まいというか、さみしそうだし苦しそうでもそれでもどこか凛としている。その中で、居酒屋で苦しさを吐露するシーンはとてもよかった。
「大人になった粘り強さはただ諦められないだけなのだろうか。諦めたらすべてを失ってしまうんだろうか。」という問いは、それなりに大人になった我々世代には刺さりますね。そのセリフがあってからのエンディング曲の内容は秀逸だと思います。粘ること、執着してしまうこと、こだわること、過去の成功、キラキラしてた青春、向き合うこと、手放すこと、変容すること。人が大人になって、何もかもが自由にならないし、若いころ思い描いていたような思い通りにはならないと知って、受け入れていけなくてはいけない、その上でどのように、何を選んで生きていくのか。何を心の支えにしていくのか。そんないろんなものが詰まっていました。
とても丁寧に作られたラブストーリーで、日常を切り取ったかのようであるのに、途中から圧倒的ノンフィクションに変わっていくんですが、でもその流れというか組立というかつながりというかすごく丁寧で、その設定自体を何の違和感もなく受け入れられるように作られている脚本が本当に素晴らしい。そして、見ているこっちが、こうであって欲しいという願いを込めながら終盤に向かってみていた感じがありました。とてもよかった。
ネタバレにならない程度ですが、作中に「あなたが一緒にいてくれたから自信になった」というセリフがあるのですが、終わった後の監督のお話の中で、「自分との対話の中で自信を取り戻していく」ということをおっしゃっていて、一人の人間が生きていく上での尊厳としての「自信」というものの重要性というか、それが他者から与えられるものであるのか自分自身の中から見出していくのか。そんなことも考えさせられました。
また、同じく監督のお話の中で、あるシーンは天気に合わせて2パターンの台本を作っていたとありました。結構大事なシーンなんだけれども。その時におっしゃっていた、人生は何があるのかわからない、明日どうなるかわからない、願った完璧になるわけじゃない。だけど、その中で人は生きていくのだという言葉がとても印象的でした。先日の『ラスト・ダンス』を見た後だからということもあるけど、香港の方の死生観や人生観ってとても興味深いなと思います。それも、過去から今に向けての流れが。
本当に丁寧で優しいいい作品でした。
それにしても、『盗月者』もそうだったけど、日本ロケブームなのかしら?
そして、「HONG KONG GALA SCREENING」に登壇された方の話を聞きながら、やっぱ広東語が好きだなと思いつつ、今度、ニコラス・ツェーがコンサートをする「啓徳体育園」のCMが見られてとてもうれしかった!
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監督:梁禮彥
出演:鄭伊健、許恩怡、陳卓賢 他
2024年/香港
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