🧵この記事はきっかけ(1)からの連続シリーズです

 

 

待ち合わせ場所のカフェで待っていると、サイが大きな荷物を持って現れました。私が日本語講師をしていた時に手作りしていた教材があまりに大量になってしまい、重さと幅を取っていたので、日本に帰国する時にサイの実家に置かせてもらっていたのでした。サイはそれを私に返してきました。

 

 

お互い話すこともなく、しばらく沈黙が続いたので、私はサイに「デザイン会社での仕事はどう?」と聞きました。サイは給料も安いし別に楽しくはないけれど、仕事なのでとりあえず行っていると投げやりに答えました。

 

 

「私が無理やりサイを台湾に帰らせたような形になってしまったよね。群馬に行かずに台湾に帰ってきたこと、後悔してる?」

「別に」

「あの時、群馬の工場で蛇口の検品をしても、サイの将来に繋がらないと、どうしても思ったんだよね」

 

 

この「きっかけ」シリーズを書いていて、私は当時終始一貫して、頼まれてもいない「サイの将来」「サイのキャリアパス」の心配しかしていなかったことに改めて気付かされました。私は自活する事に重きを置いて生きてきたので、その目線でしか物事を見られず、サイにもそれを押し付けていました。一方サイは、自分が頑張れる理由は私の存在しかないと最初からはっきり言い切っていました。私には毎日作品を作ってプレゼントしてくれるのに、他の場面では一切自主的に作品は作らない。私の票があれば、コンテストで他人から評価されることなんてどうでもいい。興味のない就職だって、私と別れたくなかったから動いただけ。「サイは毎日何してるの?」と聞くと、「えりちゃんのケア」としか答えない。サイは初めから自分の動機は私だけだと言い切っていて、そこは嘘偽りなく終始一貫していました。サイは私の事しか見ていなかったのに、私はサイの将来しか見ていませんでした。最後にサイと会ったカフェでも、私はまだサイのキャリアパスの事ばかり考えて、そんな話しかできませんでした。お互いに何の感情もなくなったとしても、例えそこに憎しみや恨みがあったとしても、今はつまらなく思えるデザインの仕事が何年かしてサイのキャリアにプラスになるならそれでいいと、この時も本気でそんな事しか考えていませんでした。

 

 

サイがもう帰ると言って席を立ったので、私も荷物を持って席を立ち、タクシーを拾うために広い通りに出ました。

 

 

サイは、ホテルに着いたら無事に着いたという連絡だけはしてくれと言って、私がタクシーに乗るのを見届けてくれました。

 

 

つづく