ヘンチ、キンダルらが発見した糖質コルチコイドcortisoneの構造式は次のようになっています。実はこのままの形ではcortisoneは糖質コルチコイドの作用は発現しません。
コルチゾンは体内でC11のケト基 =O が還元され水酸基 -OHとなります。これがヒドロコルチゾンHydrocortisone で、別名コルチゾール cortisol です。cortisone は cortisol に変化することで初めて糖質コルチコイドとしての作用を発揮します。こうしてC11の水酸基は糖質コルチコイド受容体(GR)との結合に必須であることが分かります。
上の図は cortisol の構造式ですが、青マークの部分は薬効に重要な部分です。
このcortisol は糖質コルチコイドとしての作用と同時に鉱質コルチコイドとしての作用を合わせ持ちます。鉱質コルチコイドの作用は体内電解質のバランスを変えますので、糖質コルチコイドの作用のみを増強した薬が考え出されました。これが合成ステロイド剤です。
cortisol のA環のC1,2間を2重結合にしたものがプレドニゾロン prednisolone です(商品名:プレドニン)。このようにすることで鉱質コルチコイドの作用(MF)が弱まり、糖質コルチコイドの作用(GF)が強まります。(MFは0.8に低下し、GFは4倍になります)
prednisolone のB環のC6にメチル基-CH3を付けたものが、メチルプレドニゾロン methylprednisolone です。これにより鉱質コルチコイドの作用が弱まります。(MFが0.5で、GFは5倍になります)
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少々分かりにくいので、ステロイド骨格の図を載せました。
prednisolone のB環の C9にFをつけると全ての生物活性が強くなり、薬の安定性が増します。さらにD環のC16αに水酸基-OHをつけ鉱質コルチコイドの作用を弱くした製剤がトリアムシノロンtriamcinoloneです(商品名:ケナコルト)。(MFが0で、GFは5倍です)
同様に、prednisolone のB環の C9にFをつけ、D環のC16αにメチル基を付けたものがデキサメタゾンdexamethasoneです(商品名:デカドロン)。これにより鉱質コルチコイドの作用はほぼ0で、糖質コルチコイドの作用は25倍に増強されます。
C16βにメチル基を付けた異性体がベタメタゾンbetamethasone で、ほぼ dexamethasone と同様な効果を有します(商品名:リンデロン)。(MFは0で、GFは25倍です)
これらのcortisol 誘導体とは別に、黄体ホルモンprogesterone から誘導された合成ステロイドがあります。これがフルオロメトロンfluoromethorone です(商品名:フルメトロン)。
progesterone の構造式は次のようになっています。(cortisol と類似していますが、両者ともコレステロールから合成され、ステロイド骨格を持つステロイドホルモン族で、この仲間にはさらに卵胞ホルモンestrogen、男性ホルモンtestosterone などがあります。)
糖質コルチコイドの作用発現にはC環のC11に水酸基-OHが付くことが必須ですから、progesterone のC11に水酸基を付け、methylprednisolone のようにC1,2を2重結合とし、C6にメチル基を付け、triamcinolone のようにC9にフッ素を付けたものが fluoromethorone になります。
薬効は triamcinolone と同程度と考えられます。なお、フルオロメトロンは眼圧に対する影響が他のステロイド剤より少ないと考えられています。