亜酸化窒素 N2O | きくな湯田眼科-院長のブログ

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横浜市港北区菊名にある『きくな湯田眼科』

NOと同様に窒素酸化物であるN2Oは亜酸化窒素と呼ばれます。NOが大気中ですぐに酸化され二酸化窒素NO2になるのに対し、N2Oは反応性の低い気体で、その麻酔作用から別名笑気として知られています。


笑気は英国のJoseph Black(1728-1799)とJoseph Priestley(ヨセフ・プリーストリー;1733-1804)が1772年頃、それぞれ別個に発見しました。当初は伝染病の根源とされ、危険なガスと考えられていました。


1795年に笑気を研究していた英国のHumphry Davy(1778-1829)が自分の智歯の痛みが笑気を吸うことで軽くなることに気づき、1800年の論文で、笑気には肉体的苦痛を消滅させる作用があり、外科手術には有用であろうと記載しています。しかし、この発表は長らく外科医の目にとまることはありませんでした。Davyはその後カリウム、カルシウム、バリウム、マグネシウム、ストロンチウム、塩素など多数の原子の発見者となり輝かしい成果を上げましたが、笑気の麻酔効果を研究することは二度とありませんでした。


笑気の持つ酔ったような感覚は人々を引きつけ、米国では地方巡業の娯楽ショウで笑気を吸入させ異常感覚を経験させる商売が成り立っていました。中でもコルト拳銃で知られているSamuel Colt(1814-1862)は1830年代に笑気ガス一嗅ぎ25セントの商売を行い、北米東海岸の村から村を渡り歩き稼ぎました。彼はこの商売で得た資金で1835年に回転式連発銃の特許を得ることができ、その後大富豪の仲間入りをすることになったのです。


笑気を麻酔に用いた最初の人は米国の歯科医Horace Wells(1815-1848)です。Gardner Colton(1814-1898)という自称科学教授が、硝酸アンモニウムから笑気を得る方法を確立し、その公開実験を目にしたことから、彼は1846年に自分の歯を抜くときにColtonに頼んで笑気を投与してもらいました。この結果ほとんど痛みを感ずることがなかったことから、麻酔に笑気を使うことを決めたのです。ところがその後の公開実験で笑気麻酔をかけ抜歯を行った青年が苦痛で顔をゆがめたことから、彼の名声は地に落ちてしまいました。(後に抜歯をされた青年は、実際は痛みを感じなかったことを告白しています)彼は失意のうちに笑気麻酔を広めることを諦めてしまいました。


今日でも歯科の麻酔として笑気麻酔はよく知られています。私が麻酔科の研修を受けた頃は笑気・酸素・ハロタンを使用するGOF麻酔は、全身麻酔で最も多く用いられる麻酔法でした。ところが最近では多くの施設で全身麻酔としての笑気の使用は大幅に減少しているようです。


これは麻酔薬と麻酔の進歩が大きく関わっているものと思いますが、N2Oがオゾン層破壊の元凶であると見なされたことも影響しているのでしょう。( 2009年 サイエンス誌で二酸化炭素の310倍もの温室効果があることが報告されました。 )