一酸化窒素 NOガス | きくな湯田眼科-院長のブログ

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一酸化窒素(NO)は生体での重要な情報伝達物質です。有毒ガスとして考えられていたNOの生物機能は1980年代において驚くべき発見として扱われ、NOは1992年のサイエンス誌では「今年の分子」として取り上げられました。


NOの生理活性を発見したR.F. Furchgott (ファーチゴット)、L.J. Ignarro(イグナロ)、 F. Murad(ムラド)らは1998年にノーベル医学生理学賞を受賞しています。


NOは細胞内の可溶性グアニル酸シクラーゼ(soluble guanylate cyclase : sGC)に付着し、GCの蛋白の形状を変化させ活性化します。活性化したGCはグアノシン3リン酸(GTP)からサイクリックGMP(cGMP)を合成します。cGMPはセカンドメッセンジャーとして働き、標的蛋白に対して効果を発揮します。これがNOの主要なシグナル伝達機構となっています。


血管平滑筋に対しては、cGMPは平滑筋のミオシン軽鎖(light chain)を脱リン酸化し、その結果筋は弛緩し、血管は拡張することになります。


ニトログリセリン、亜硝酸アミルなどの亜硝酸誘導体は体内でNOに分解され血管拡張作用を発揮し、狭心症の治療に用いられます。


cGMP分解酵素阻害剤であるバイアグラはNOが活性化したcGMPの作用を持続させ、陰茎の海綿状血管を拡張させ、勃起を促す作用を有します。


さて、NOの血管拡張作用を応用した新生児遷延性肺高血圧症(PPHN)に対するNOガス療法がこの4月から保険適応となりました。


PPHNとは、胎生期閉じていた肺動脈が通常は出生を機会に拡張されますが、この拡張が障害され肺高血圧となり、重傷呼吸不全を来す疾患です。この根本的な治療は肺動脈の血流を回復させることですが、血管拡張剤の静脈投与では全身の血管を拡張させるため、血圧低下などの副作用を生ずるのです。人工呼吸器にNOガス供給システムを接続し、NOを吸入させると、肺に直接NOが作用し肺動脈を拡張させることが可能なので、低血圧を起こす心配がありません。


同法は1992年に米国で有用性が報告され、米国では1999年にFDAの承認を受けています。我が国では2008年にNOガスの薬事承認が得られ、やっと今年保険適応になったということです。


また、NOは房水の動態に影響していることも知られています。NOの持つ様々な機能により、NOは房水産生・流出にいろいろな影響を与えていることが想定されます。


一般にNO産生剤は眼圧下降効果を有することが知られています。この作用は平滑筋弛緩作用により、房水流出抵抗の減弱によることが想定されますが、NO前駆物質であるアルギニンで毛様体上皮細胞よりの房水産生が抑制されることがブタ・ウシの還流上皮細胞を用いた実験で確認されています。別の実験ではCl-イオンの流入に関係し、ある時は房水産生を亢進、またある時は抑制する相反する効果を持っていることも報告されています。いずれにしろNOの房水産生に与える効果の解明はこれからだと思いますが、いずれNOの眼圧下降効果を狙った製剤が新たな緑内障治療薬として登場すると思われます。