「草原の実験」感想 |  ゆちょもごっそ?

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ずっと観たいと思っていた映画「草原の実験」がネトフリにきてたので観ました。(最近ネトフリの回し者のよーだがw)

 

タイトル、設定などである程度お話を予想はしていた映画ですが、観てみたら、おそらく二度と忘れ得ぬ映画となりました。

 


「草原の実験」(原題:Испытание)
監督:アレクサンドル・コット
出演:エレーナ・アン、ダニーラ・ラッソマーヒン、カリーム・パカチャコーフ、ナリンマン・ベクブラートフーアレシェフ
【作品内容】
第27回東京国際映画祭にて見事2冠に輝いた本作は、ロシアの新鋭アレクサンドル・コットが、
旧ソ連で実際に起きた出来事にインスパイアされて作り上げた、来るべき未来を予感させる衝撃作。
登場人物たちの繊細で多彩な表情、光と影が織りなす圧倒的映像美、胸に響く緻密な音響―。
その計算され尽くしたファンタジーの世界に観客を引き込み、一瞬たりとも見逃す隙を与えない。
タルコフスキーの作品をも想起させる旧ソ連のSF映画の要素を盛り込みながら、
人間の日々の営みへの温かい眼差しに満ちた傑作に仕上がっている。
そして、誰もが主人公の透明感あふれる美しさに心奪われ、ラストに突きつけられる驚愕のエンディングに言葉を失う。


【あらすじ】
その少女は、大草原にポツンと建つ小さな家で父親と暮らしていた。家の前には家族を見守る一本の樹。
毎朝、どこかへと働きにでかける父親を見送ってはその帰りを待つ少女。
壁に世界地図が貼られた部屋でスクラップブックを眺め、遠い世界へ思いを馳せながらも、
繰り返される穏やかな生活に、ささやかな幸せを感じていた。
幼なじみの少年が少女に想いを寄せている。どこからかやってきた青い瞳の少年もまた、美しい彼女に恋をする。
3人のほのかな三角関係。そんな静かな日々に突如、暗い影がさしてくる……。

 

 

なんだかこう、心を打ちのめす映画でした。

「セミパラチンスク」という地名、私はうっすら記憶にあるだけだったんですが...Wikiでも読んでみてもらえば解ると思うんですが、実際に膨大な被害を生んだ核実験場です。

もはやあらすじとこの設定だけで、ストーリーのほぼ全てなんで、ネタバレずに書くとか書かないとか、そういうこともどうでもいい映画でもありました。

 

映像美が半端なく素晴らしいという評価を観て、観たいと思った作品だったんですが、まさにその通りでした。本当に、本当に、全てが1枚の絵のような美しい映像が続きます。

静かで、音楽もとても静かで、というか、台詞がひとつも無いw 

キム・ギドク監督の「メビウス」なんかもそうですが、同じ「台詞なし」でもまったく違いますねw メビウスはセリフが無いせいでより生々しくオドロオドロシイ作品ですが、この「草原の実験」は台詞が無いことでまるで絵本のようなファンタジックな風景になってます。

 

羊を枕に昼寝するお父さん、薄い布越しに見える夕日、葉っぱと羊の毛で描いた貼り絵、真っ青な空に真っ白なプロペラ、全て美しい。そして何より美しい少女。

少年のように喜んで飛行機に試乗するお父さんと、それを眺める少女。お父さんはパイロットじゃないからもちろん飛ばすことは出来ないので、少女がそれを自分の視界に羊の毛を並べて雲をつくり、まるで飛行機が飛んでるみたいにするんです。可愛いったらもう....。

あまりにも少女が美しいので、なおさらファンタジーの世界って感じなんですよね。

草原のお日様の匂い、乾いた草の匂い、乾いた風、それしか感じない。

この少女を演じたエレーナ・アンさんはロシアと韓国のハーフなんですって。このどこか無国籍な美貌が、あえて詳しい情報を映像のなかで与えてないことも相まって、なおさら寓話っぽいんでしょうね。

 

草原と太陽と風とお父さんと自分と羊だけ。ほんとうにシンプルで穏やかな毎日で、少々刺激があるとしたら、少女に恋する地元の少年との、馬に乗って村の二差路から家まで戻るだけのデートw

もう全てが愛らしく無垢。

 

でもそんな穏やかな生活にだんだんと不穏なものが流れてきます。

被爆したお父さんは連れていかれ、そして戻ってきますが、死んでしまいます。その死すらも、そっと、ひっそりとだけ描かれます。たった一人、お父さんを埋葬する少女。そして少女は荷物をまとめ、旅立とうとします。そのまとめた荷物、小さなトランクが悲しくて。わずかな本、いつも少女が世界を眺めていた双眼鏡、そして葉っぱと羊の毛で描いた貼り絵のノート。お父さんから教わった運転でひとりトラックに乗って旅立つけど.....「少女の世界」の果ては、鉄条網に囲まれていました。

 

しかたなく家に戻った少女を待っていたのは、結婚しようと家にやってきた地元の少年と家族。私ここですごく悲しくなりました。お父さんがいなくなったら彼女はひとりぼっちなんですよね。「俺と結婚するしかないでしょ?」「うちのヨメになるしかないでしょ」、そんなふうに自分の人生をまるで選択肢が無いもののように示されたように思えて。鉄条網で囲まれてるんだから、ここで生きるしかないでしょ?と示された住民。どっちも同じ気がして。

 

結局彼女はロシアからきたよそ者の青年を選ぶんですよね。地元の青年ではなく...。彼女が美しい長い髪を自らの手でざんばらに切り落とすところに、彼女の運命への抵抗があるなと感じました。

本当に長くて美しい髪をいつも綺麗にミツアミにしていたのに。ロシア青年は、無邪気に彼女が自分を選んでくれたことを喜びますけど....。ボサボサになった髪で、初夜の月明かりで空を見つめる彼女はとても幸せそうには見えなかった。彼女の「外の世界」への逃げたい気持ちと、運命に抵抗したい気持ち、そんなものがこの青年を選ばせただけなのかという気がしてしまったんですよね。それが悲しくてたまらなかった。小さな閉じ込められた世界で、それでも何かを自分で選択したかった、そんな気がして本当に悲しくなってしまい....。

 

お父さんが死んで、目に見える部分で崩れ始めた世界が、最後のシーンで本当に砕け散ってしまった、そんな感じがしました。あの「世界の終わり」を、手をつないで迎える人がいただけでも良かったとおもうべきなんだろうか....。

この小さな少女をとりまく世界を、穏やかで幸せな小さな世界を、まるで「こんな些少なものなど些細な犠牲にすぎない」とばかりに消し去った「実験」。まだ扱いきれないものなのに、その強力な力を手にしてしまったら手放さないニンゲンって、やはり間違ってる気がするよ....。

 

世にも恐ろしく、美しく、悲しい絵本を見た、そんな感じの映画でした。

いろいろ書いたけど、これ言葉で説明するのがあまりに陳腐になるね。

 

 

セミパラチンスクに関しては、ちょっと覚悟して調べたほうがいいと思います。

かなり恐ろしくも無残な画像とかもたくさん見ることになると思うので....。