今年のNHK大河ドラマ「光る君へ」で、第65代天皇だった花山天皇(968 - 1008)は藤原兼家親子に騙されて、在位わずか2年で19歳の若さで出家させられ、その後、藤原一族の摂関政治による支配力が増していく様が描かれています。このお気の毒な花山法皇(天皇退位した上皇が出家すると法皇となる)は、傷心の気持ちを癒やすために熊野地方を旅してあちこちに足跡を残されており、熊野古道愛好家にとっては貴重な法皇なのですが、この花山院に(陰に陽に)微妙に関わっているのが、陰陽師の安倍晴明(921 - 1005)です。

安倍晴明は、平安時代に一世を風靡した超能力者?として有名で、今年のNHK大河ドラマでは、ユースケ・サンタマリアがユニークな安倍晴明を演じています。かつて公開された陰陽師シリーズ映画(野村萬斎主演)とSEIMEI という音楽は、羽生結弦選手の冬季オリンピック男子フィギュア連覇(金メダル)と相まって、私たちの記憶に深く刻まれていますが、今年また、映画「陰陽師0」が公開されていて(主演は山﨑賢人)、安倍晴明ブーム再来の感があります。

この安倍晴明は、花山天皇が騙されて密かに出家する(退位する)際、一行が晴明の家の前を通った時にすでにそのことを察知していたと言われていますが、その後も花山法皇の精神的・霊的なサポーター?になっていて、例えば法皇が那智熊野で千日修行を行っている際に様々な妨害をする天狗に困って安倍晴明を呼び寄せ、安倍晴明は天狗を岩屋に閉じ込めて祈祷、花山法皇は無事に修行を終えたとのことです。

 

 



熊野古道における花山法皇の足跡として特に有名なのは、近露にある牛馬童子像(箸折峠)で、「花山法皇がこの地で休憩した際、弁当に箸が入っていなかったため、従者が機転を利かせて付近の萱の茎を折って箸として渡したことから、箸折峠と言われるようになった。その茎から露がしたたり落ち、その芯が赤く染まっていたので、側近に「これは血か露か」と尋ねたため、峠の麓が「近露」と呼ばれるようになった」とのことです。

 

 



さらに、那智山の青岸渡寺を起点とする西国三十三ヵ所巡礼や御詠歌の始まりを花山法皇と結びつける節もありますが、これは真偽の程は定かでないようです。

最後に、昨年秋、私の熊野古道仲間と訪問した千里の浜の千里王子近くにある花山法皇の記念碑(写真)の紹介をします。碑の前の丸い石は、天皇退位後の傷心の花山法皇が熊野詣でここまで来られた時、気分が悪くなって横になった時に枕にした石とのこと。そして、記念碑には、法皇が詠んだ下記の歌が刻まれています。
「旅の空 夜半(よわ)の煙と のぼりなば あまの藻汐火(もしおび) たくかとや見む」
 (もし私が旅の途中にここで死んで火葬されたとしても 漁師が塩をつくる火を焚いている煙だと思うのであろう・・)

自らの不安と寂しさを嘆いた歌とのことですが、このあと、中辺路の近露を経て那智に向かい、そこで千日修行をして安倍晴明にも助けられるのですから、やはり蘇りの地「熊野」の魅力と霊力はさすがと言えますね・・

 

(千里王子 花山法皇歌碑)