夢十夜

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国文学者の林望さん(「イギリスはおいしい」などの著書多数)は、かつてFM東京のディジタルラジオ局(ミュージックバード)で、「リンボウ先生の音楽晩餐会」ほかの音楽番組を二つ持っておられたそうです。その林先生が、昨年発刊の「役に立たない読書」という著書(いい本や古典をじっくり何度でも読むべきという主旨)の「第六章 耳の読書」の中で、下記のように書いておられます。

 

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往古「源氏物語」の時代には、その接し方は、まず間違いなく「耳で聞いて理解し、味わう」ということであったろうと思います。・・・(以下略)
また、「平家物語」ともなると、もともとが琵琶法師の歌い語った音楽的叙事詩ですから、さらにその朗誦性は顕著であって、耳で聞いて快い韻律性を豊かに湛えています。
そういう「耳で読む」ということは、古典文学ばかりでなく、近代文学でも同じように意味のあることだと、私は思っています。
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最近の若者や子供達があまり本を読まないということが和歌山県でも問題となっているようですが、本が好きになるかどうかは、子供の頃に親に本を読んでもらったような体験も含めて、イマジネーションを膨らませる楽しさを味わったことがあるかどうかが大変重要な要因になると思います。

 

私が子供の頃は、岩波少年文庫のような児童書もいろいろ読みましたが、自宅にまだテレビもありませんでしたので、ラジオを聴くことが大きな楽しみでした。当時は、あの吉永小百合も声役で出演していた「赤胴鈴之助」や、「少年探偵団」「一丁目一番地」というような人気ラジオ番組がいっぱいありました。そのようなラジオ番組の中で、NHKラジオの「朗読の時間」は、今も続く長寿人気番組となっています。

 

林先生は、上記の著書の中で、「(ミュージックバードの音楽番組の中で)自作の朗読や、古今の名作朗読というコーナーを設けて、都合六年間ほど、ほんとうにさまざまの作品を朗読放送してきました。そういう経験を通して、自分にとってもっとも読みやすく面白い作品はなんであったかというと、それは漱石の「夢十夜」でした。」と書いておられます。

 

そこで、私も早速、昔小さな活字で読んだことがあった「夢十夜」の最新文庫本を購入して、もう一度読み返してみました。「こんな夢を見た・・」で始まるものが多い十話のお話は、本当にイマジネーションを掻き立てられるものばかりで、漱石の見たという夢の内容が自分自身の空想として大きく広がって、何とも言えない不思議な世界を形成してくれるのです。確かにこれを暗い部屋の中でラジオからの朗読で聞いたら、もっと夢が膨らむだろうと思った次第です。

 

ということで、FM TANABEでもこのような「朗読コーナー」があったらいいな、と思っておりますし、それが子供達に読書を好きになってもらう一助になれば本当に嬉しいことです。