★日本で在任期間が最も長い元総理大臣が凶弾に倒れて死亡した事件から約2カ月程経った時に,グレートブリテン及び北部アイルランド連合王国(英国)及び英連邦の君主である女王が96歳で亡くなりました。そして,どちらの葬儀についてもそれぞれの国で国葬が行われることとなりました。英国の女王の国葬に関しては,新聞やテレビでの報道によれば,英国民の間から女王の国葬に関して異論は全くないようであり,かつては君主制に異議を唱えていた人々も女王の逝去を悼んでいます。日本ではどうでしょうか。元総理大臣の国葬について,国民の半数以上が反対しているのに行われようとしています。

 

★英国は,政治の実体は国民主権ですが,形式上は君主制です。従って,君主である女王が亡くなったときには国葬を行うのは当然かもしれません。しかし,日本は違います。総理大臣は,国民主権の下で選ばれた国会議員から国会において選出されるのですから,死亡した人が元総理大臣であるからといって,法律上の根拠もなく,国権の最高機関である国会において説明や了解を得ることなく内閣のみで国葬の実施を決定し,十億円単位の国費を費消し,しかも国民の半数以上が反対している国葬を執り行うということは相当と言えるのでしょうか。

 

★憲法や行政法といったいわゆる公法学の分野では,「侵害留保」といって国民に何か義務を課したり,国民の権利を制約するような場合には法律上の根拠が必要とされています。従って,今回の元総理大臣の国葬の実施にあたって国民に何か義務を課したり権利を制約したりすることがなければ,法的な問題はないと言えるのかもしれません。しかし,法的な問題がなければ内閣において国葬でも何でも自由に決めて十億円単位の国費を支出することが認められて良いのでしょうか。

 

★今一度国民主権という憲法の大原則に立ち返って考えてみるのならば,多額の国費を支出する国葬を行うにあたっては,主権者たる国民の代表で構成される国会において国葬を行う理由や支出することとなる国費の額などについて内閣において説明し,国会の賛同を得るという手続をするのが相当であると考えます。

 

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