★最近見た判例検索のwebサイトに,平成24年6月5日に発生した交通事故の刑事裁判(起訴罪名は自動車運転過失致死傷罪)に関して,令和4年3月24日に無罪の判決が言い渡された事件が載っていました。事件発生から10年も経過しております。この間における被告人や弁護人の労力は計り知れないものがありますし,交通事故で死傷した人の遺族や家族にとっても割り切れないものがあるかと思います。

 

★事案を簡単に説明しますと当初の公訴事実は,被告人は,高速道路を走行中に前方を走行していた普通貨物自動車と十分な車間距離を取らず且つ安全確認不十分のまま漫然と時速約100キロメートルで走行したために先行していた前記普通貨物自動車との衝突を避けようとして車線変更したところ,変更した車線の前方に大型貨物自動車が停止していたことから元の車線にハンドルを切ったものの及ばず,前記普通貨物自動車と前記大型貨物自動車に自分が運転していた自動車を衝突させて,車外にいた大型貨物自動車の運転手を路上に転倒させて死亡させ,普通貨物自動車の運転手にも腰部打撲等の傷害を負わせたというものです。

 

★一審の盛岡地方裁判所は平成30年に有罪判決を言渡しましたが,被告人はこれを不満として仙台高等裁判所に控訴申立をしました。控訴審判決では,「検察官は被告人が保持すべき車間距離について一審で明示すべきであるのにこれをしておらず,裁判所も被告人が保持すべきであった車間距離と現実的に採り得た衝突回避行動について具体的に主張するように検察官に促すべきであったにもかかわらずこれをしないで審理を終結したのであるから,一審裁判所には釈明義務違反があり審理不尽を生ぜしめた違法がある。」として,上記の有罪判決を破棄して盛岡地方裁判所に差し戻しました。これに対して被告人のみが最高裁判所に上告しましたが,上告棄却となりました

 

★差戻審は平成31年から始まり,2回目の一審の裁判の判決が言い渡されたのが,令和4年3月24日です。最初に述べたように交通事故から10年も経過してからの判決です。控訴審で差し戻される前の一審裁判所が前記のとおり被告人が保持すべき車間距離や現実的に採り得た衝突回避行動について具体的に主張していれば(裁判所がさせていれば),無罪判決までこのような時間はかからなかったと思います。

 

★英米法に「ディレイドジャスティス,ディナイドジャスティス」(遅い裁判は裁判の拒否と同じである。)という言葉があります。本件ではまさにこの言葉が当てはまると言っていいでしょう。このような事件は2度と起きて欲しくないので,本ブログにおいて敢えて取り上げさせていただきました。皆様はどのようにお考えになりますでしょうか。

 

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