★去る令和4年7月8日に安倍元総理大臣が奈良市内で暴漢に狙撃されて亡くなりました。憲法の大原則である国民主権・民主主義や表現の自由を踏みにじる行為であり絶対に許されるものではありません。安倍元総理大臣の政策の是非はともかく,亡くなられたことに対しては哀悼の意を表するとともに,このような行為をした者の厳罰を求めたいと思います。

 

★ところで,刑法77条には,国の統治機構を破壊し,又はその領土において国権を排除して権力を行使し,その他憲法の定める統治の基本秩序を壊乱することを目的として暴動をした者について,その首謀者は死刑又無期禁錮に処する旨規定しています。そうすると,現役の内閣総理大臣を殺害した場合には,この内乱罪で処罰されるのでしょうか。正解は内乱罪は成立しません。

 

★内閣総理大臣が欠けた場合には,予め定めておいた国務大臣(よく「副総理」と言われます。)が内閣総理大臣の臨時代理を務め,国会において新たな内閣総理大臣が指名されて新内閣総理大臣が新たに国務大臣を任命して内閣を組織することになっています。従って,内閣総理大臣を殺害することで直ちに憲法の統治の基本秩序が壊乱するということはありません。昭和10年10月24日付大審院判例によれば,憲法の統治の基本秩序が壊乱するとは,国家の政治的基本組織を不法に破壊することであり,ただ内閣総理大臣を殺害するだけでは内閣制度を根本的に破壊することにはならないとされています(五・一五事件判決)。

 

★従って,今回の安倍元総理大臣を殺害した被疑者については,殺人罪で奈良地方裁判所において裁判員裁判にて裁かれることとなります。それでも,前述のとおり憲法の大原則や守られている人権を蹂躙した行為は到底許されるものではありません。おそらく厳罰が下されることと思います。今後の捜査や裁判の経緯を見守っていきたいと思います。

 

『尾崎祐一法律事務所』公式ホームページはこちら

https://peraichi.com/landing_pages/view/ozakilaw