「お前たちは、物を壊すことしか知らん!」
担任のS教諭がジローら3名を職員室に呼び、説教をしていた。
「そいじゃ、俺らで直したら文句なかろう?」
シンが息巻いた。
S教諭は、ふふんと嘲笑うかのように、
「お前らで直せるのか?もし出来なければ親御さんを呼び出すことになるぞ!」と言った。
「こんなもん一晩あれば直してやらぁ!」
ジローが啖呵を切って請け合った。
こんなもの…とは、教室の掲示板である。
そもそも美術の授業の際、塑像のためへら代わりにナイフやフォークで粘土を肉付けしては削ったりしていたその道具が、危険なおもちゃと化して掲示板を傷だらけにしたのだった。
ことの発端はこうである。美術の教師K一郎が、塑像の授業の際、
「お前らの先祖のうちの頭のいい輩は、全部家康さまが江戸に連れて行ったわけよ。そんなもんで、残ったカスの子孫がお前たちってわけ。カスの子孫はどこまで行ってもカス…。カスだから碌なことはできめぇから、お前らは俺の作るのを見て猿真似をしてればいいってこと…」。
そんなことを言ったのである。
発奮したジローは、見事な猿真似をして、なかなか見事な塑像を作った。
見事だったがために、返って周囲の連中から「猿真似野郎」呼ばわりされてしまったのだった。苛立ったジローは、塑像に使っていたフォークを冷やかし連中の目の前を掠めるように投げた。そうしたところ、それが見事に掲示板に突き刺さり、今度は一躍脚光を浴びたのだった。
その日から悪男子どもが掲示板に向かってフォークを投げて突き立てる、ダーツみたいな遊びがクラスの中で流行ったのだった。掲示版はみるみるボロボロの様を呈し、―それでも最初のうちはプリントなどを貼ってごまかしていたのだが―とうとう担任のS教諭に見つかったのである。
* * * * *
さて、啖呵を切ったものの、何か考えがあったわけではなかった。
とりあえず、同級生の家で材木店を営んでいるところに行き、そこのおじさんにベニヤ板と数本の材木を分けてもらった。教室に帰ると、まずは古い掲示板の取り外しである。
外そうと思ったが、普通にやっていてはびくともしない。
最後は椅子を振り上げて掲示板をバリバリに叩き割った。ジローはちょうどカセットレコーダーを持っていたので、ローリング・ストーンズの曲をかけた。
サティスファクション、ギミー・シェルターなどの曲が流れた。
YouTube - Rolling Stones - Satisfaction
あっという間に日が暮れて、下校の時間も優に回っている。
「一晩ってことは、明日の朝、始業前までに直っていればいいってことだよね?」
ジローたちは、教室の窓の一か所の鍵をかけたように見せかけて開くようにしておいた。
「レンちゃんは、のこぎり持って来て。シンは金槌と釘ね。
自分はまた飛びっきりのテープを持って行くからさ」。
そうして翌朝5時に集まった3人は、
Junpin’Jack Flashに小躍りしながら掲示板を張り替えたのだった。
YouTube - Rolling Stones - Jumpin ...
始業のベルが鳴り、S教諭が教室に入って来た。
「ん、掲示版の色が…一枚違うな?」
それだけ言って、授業が始まった。