いずみ そこ  いっぽん  さじ なつをは

泉の底に一本の匙夏了る  飯島晴子



ここ数日来、気温も下がり「もう秋」との声をちらほら聞く。この時期私はよく焦燥に駆られる。…ひと夏の忘れ物。ふと振り返るのだが、何か忘れているような、ただ、何を忘れたのかも思い出せない不安がそこにある。


掲句の、泉の底に作者が見た一本の匙…。

この辺りでキャンプをした者等の忘れ物だろうか?この匙にもひとつのドラマがあったことだろう。人々の笑い声、…バーベキューか飯盒か…はずむ会話…。それらを聞いていたこの匙は、忘れ去られて、今、泉の底で眠っている。


作者は、夏の終わりをこの一本の匙に見つけた。ひと夏の終わりの象徴がそこにあった。

泉を渡る風は心地よいというより、幾らか冷気を帯びた涼風だったろう。




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