宵の口の雷雨が通り過ぎ、風が立つと、冷めた空気が肌に心地よい。遠くに虫の声が聞こえる。夜になると早や秋の気配だ。


「夜の秋」と「秋の夜」は似て非なるものだ。

後者は文字通りの秋の夜だが、前者は夏の季語である。昼間はぎらぎらと照りつける太陽に眩暈も起こしそうなくらいだが、夕立が過ぎ、温まった空気が冷されると、秋の気配が忍び寄ってくるのを感じる。これが「夜の秋」という季語だ。


涼しさの肌に手を置き夜の秋    高浜虚子


山本健吉氏の解説を引用させていただく。


「温度計の目盛を標準にして言えば不合理だろうが、秋を感じるのは主観であり、気分なのだから、科学的な厳密さよりも、詩人の詩情の上で、この季語は生きていればよい」。


今宵、あなたのもとにも、そっと秋が忍び寄ってきてるかも。


手を突きししとねのくぼみ夜の秋  川島千枝


暑い日の続く中で、ふと秋を感じさせるような瞬間がある。それは一雨去った後の澄み渡る夕焼空であったり、宵の口に初めて聞く虫の声だったりする。作者は、そうした一夜に横たわり、ふと、そのしとねに手を突くと、そこは柔らかにくぼみ、あぁ、秋だなと感じたのだった。ささやかなこと、ごく一瞬の感触かもしれないが、夜の秋を感じたのだった。



ほら、秋はもうそこに、あなたの隣に居るのですよ。


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