初日の第一回句会を終えると、悠人は、日帰りされる純江さんを越後湯沢の駅へと送り、その他の皆にはお風呂に入ったり、くつろぎの時間を過ごしていただいた。


―いつも悪いわねぇ。


純江さんがすまなさそうに言った。


―大丈夫ですよ。皆さんと月に一度お会いできるのが楽しみなんですから。

 

車は滑るように下り坂を走った。山に囲まれた道に西日が差して、遠くの山の雪渓がちらほら見えた。幾つもトンネルをくぐった。


―私って、ほら、一度倒れてから何をやっても鈍いでしょ?

  皆さんの迷惑になってやしないかと思って…。


―そんなふうに誰も思ってやしませんよ。

  まえにテレビかラジオか…本で読んだのかもしれませんが、脳溢血とか、

  その他のこともすべて身体の出すサインなんだそうです。 …純江さんも、

  それまでの人生をがんばってこられたのだから、あとはスロー・ライフを楽

  しみなさいって、ご自身の身体が純江さんに言ってるんだと思いますよ。


―そうなのかしら。でもそういうふうに思ったほうが楽しいわね。

  

純江さんの笑顔がこぼれた。

彼女を駅に送り届け、もう一度山道を引き返し宿に着くと、もう夕餉の時間だった。

夕餉は6時から、第二句会は7時半からということになった。



本陣3


会席の献立は、虹鱒の杉香り焼、山菜の天婦羅、越後もち豚山賊焼など…そして、やはり美味しいのは魚沼こしひかりの御飯だった。料理に舌鼓を打っては、少しのお酒でほどほど酔って、第二句会に臨んだのだった。


       のみど

冷酒の喉に熱し峠宿  悠人



句会の後、露天風呂に浸かり、一日の出来事を振り返った。



本陣4


ブログの友人たちのこと、地震のこと…自然の中の人間の占める位置などを考えた。

堂々巡りの思いを整理するまでには至らず、脳内にかかった靄を拭えないまま、峠の夜は更けていった。



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