厚生労働省HP「心の健康」より。
不安障害の認知療法・認知行動療法マニュアル(平成27年度厚生労働省障害者対策総合研究事業「認知行動療法等の精神療法の科学的エビデンスに基づいた標準治療の開発と普及に関する研究」)のPTSDの認知行動療法マニュアル
PTSD(心的外傷後ストレス障害)の認知行動療法マニュアル(治療者用)[持続エクスポージャー療法/PE療法]
マニュアルを読んでいて、昔はトラウマ的な出来事だとか行けない場所があったなと思い出しました。フラッシュバックや回避の構造など、思い当たるところがたくさんありました。今も乗り越えられているとは言えない状況ですが、ここまでくるのは大変な道のりだったな。色々ありますね。非常に興味深かったです。
1)理論的基礎
持続エクスポージャー療法(以下、PE)は、不安障害のためのエクスポージャー療法の長い歴史と、PTSDの情動処理理論(Emotional Processing Theory)に基づいている。
情動処理理論によれば、恐怖はひとつの認知構造として記憶の中に表現され、その中には、恐怖刺激、恐怖反応、刺激に関連した意味、さらにこれらへの反応が含まれる。PTSDの背景にある恐怖構造の特徴は、第一に危険であると誤解されている刺激が非常に多く存在することであり、第二にそうした刺激がPTSD症状に見られるような生理学的な覚醒の亢進と行動的な回避反応と結びついていることである。
危険と感じられる刺激があまりにも多いので、PTSD患者の目から見れば世界はすべて危険なものである。
それだけではなく、トラウマ被害の最中の自分の行動や、それに続いて現れた症状、そして現在のPTSD症状に対する否定的な意味づけなどによって、患者は自分が無力であると思い込んでいる。
これらの2つの広義の否定的な認知(「世界はすべて危険だ」「それに対処するには私はまったく無力だ」)は、さらにPTSD症状を悪化させて、誤った認知をいっそう強化する。
2)PTSDの自然回復と慢性化
トラウマ被害の直後には、普通、重度のPTSD症状が生じるが、多くの場合は時間の経過とともに自然に回復する。自然回復は日常生活における情動処理の結果であると考えられる。この過程は、トラウマ記憶が何度も賦活され、トラウマに関連した考えや感情が呼び起こされ、それを他の人間と話し合い、ト ラ ウ マ を 思 い 出 さ せ る よ う な 状 況 に向き合うことによって、世界は危険であるとか、自分には何の力もないといった考えは修正される。さらに助けになってくれる者を相手にトラウマの出来事について話したり考えたりすることで、事件の記憶の筋道が整理し直されるのである。
情動処理理論の枠組みで考えるならば、PTSDが慢性化するのは、トラウマの想起刺激を極度に回避したためにトラウマ記憶が適切な処理を受けなかったからである。
したがってPTSDの治療では情動処理を促進する必要がある。
PTSD治療としてのPEでは、自然回復の場合と同様に恐怖構造が十分に賦活されるのだと考えられている。想像及び現実エクスポージャーを通じてそのような賦活が生じることによって、患者はトラウマに関連した思考、イメージ、状況に意図的に向き合い、自分と世界についての感じ方が不適切であったことを学ぶことができる。主として認知や行動に負の強化が加えられていることでPTSDは維持されているが、PEはトラウマの記憶や想起刺激への直面化を通じてこのような強化を減少させる。
さらに馴化が生じると、「回 避 以 外 に 苦 痛 を や わ ら げ る 方 法 は な い 」と い う思いこみは否定される。想像および現実エクスポージャーによって、患者はトラウマ的な出来事と、それに似てはいるが危険ではない出来事の区別ができるようになる。
PTSDの患者は、トラウマとなった出来事について考えるだけでも、まるで被害が「まさしく今、ここで」起こっているように感じることが多い。
トラウマ記憶への想像エクスポージャーを繰り返すことを通じて、トラウマを思い出すことでどれほど取り乱したとしても、再び被害を受けるわけではないことが理解されるようになる。
さらに被害の出来事について考えることは危険ではないことに気づき、過去と現在が区別できるようになる。
繰り返しトラウマ記憶の扉を開いて物語ることで、出来事の記憶の中には様々な別の要素があることに気がつき、必ずしも世界が危険だとか自分は無力であると信じる必要はないことが正確に判断できるようになる。
3)PE全体の概観
PEには以下の手続きがある。
・心理教育。トラウマ後の一般的な反応の説明など。
・呼吸再調整法。自分を落ち着かせるための呼吸法の指導。
・現実エクスポージャー。トラウマによる苦痛や不安のために患者が避けている状況や対象に対して、繰り返し行う。
・想像エクスポージャー(想像の中でトラウマ記憶に立ち戻って話すこと)。トラウマ記憶に対して、繰り返し、持続的に行う。
6)対人暴力の被害者を治療する際の留意点
レイプ、悪質な暴行、小児の性的虐待の被害者を治療する時には、被害者が故意による他人からの重大なトラウマを体験したことを忘れてはならない。患者は極度の恐怖を体験し、誰も信用できないという悲観的な世界観を持っているはずである。患者から信頼されて、こうした被害体験の情動処理を助けていくためには、強力な治療同盟を結ぶことが不可欠である。
9)治療への動機づけ
恐怖のために避けてきた記憶やその想起刺激に向き合うことは大変難しい。PEからの脱落率は、PTSDに対する他の認知行動療法と変わらないが、それでも20―30%の患者が途中で脱落する。回避はPTSDの症状の一部なので、治療そのものを回避したいと思うことがある。治療を開始した直後や、治療を回避をしたいという葛藤が生じたときには、常に回避について話し合い、治療への動機付けを高める。
トラウマに情動的に関わって強い不安を感じたとしても、以前のトラウマ被害のように傷つくわけではないし、その不安が永遠に続くわけでもない。そのことを患者に理解させるだけでなく、治療者自身もその事実を信じる必要がある。治療上の判断を行う時には、それが患者の自己コントロール感を増やすことになるのかどうかも考える。もし患者がトラウマに焦点を当てた治療を受ける準備が出来ていないのなら、治療を止めさせる方がよい。
・すでに恐怖と向き合ってみたが、どうしても不安が収まらず、うまくいかなかったという患者もいるかもしれない。回避を止めることなど思いもよらないという患者もいれば、トラウマ体験を視覚化して話すほど自分は強くないという患者もいる。治療の効果を疑っていたり、自分にはこの治療は無理かもしれないと思っている患者に対しては、この治療は少なくとも理論にかなっており、今まで彼らが自分で試した方法とは違うのだということを説明する。
以下の点を例を挙げながら、患者に分かりやすく説明する。
・この治療では恐怖と、その恐怖に対応できていないことの2つを扱うこと。
・症状が長引く原因が回避にあること。
・治療は想像エクスポージャーと現実エクスポージャーによって行われること。
・PTSDが長期化するもうひとつの原因が、自分自身や世の中に対する、自分の役に立たない思いこみであること。
・「トラウマ後によく見られる反応」について話をする目的は以下の通りである。
①患者自身のPTSD症状と、それに関連した問題を明らかにすること。
②患者が経験していることは当然のことであり、正常の反応であると認めること。
③患者の苦痛な症状の多くは直接PTSDに関連しており、その大部分はPTSDの治療によって軽減するという希望を持たせること。
g.現実エクスポージャーのための不安階層表の作成
患者に現実エクスポージャーの理論とSUDSを説明し終わったら、患者がトラウマのために回避している状況、人、場所のリストを作成し、対応するSUDSレベルを記入する。このリストは、繰り返し練習ができる課題を作成するためのものであるので、実際に行うことのできる状況を選ぶ必要がある。現実エクスポージャーの課題には、客観的に見て安全で危険の少ない状況を選ぶことが大切である。また患者の日常生活の状況に適合するように、患者と治療者が相談をして選ぶ必要がある。客観的に見て危険であったり、リスクの高い状況を課題に使うべきではない。
h.現実エクスポージャーの宿題
現実エクスポージャーは、中等度のSUDSレベル(SUDS=40か50)の状況から開始し、徐々により苦痛を伴う状況(SUDS=100)へと練習を進める。現実エクスポージャーの最中には、30から45分、あるいは不安が十分に低下するまで、その場面に居続けるように指導する。SUDSが最低50%低下するまでとどまることが目標である。i.現実エクスポージャーの宿題の提示不安階層表のリストを元にして、現実エクスポージャーの課題を選択する。目標は、トラウマ体験を思い出させる状況にいることができるようになることであるが、過度の不安を生じるようなことは避ける。効果を挙げるためには、同一の状況に対して何度も現実エクスポージャーの練習を行い、毎回、30分以上続けることが必要である。SUDSが40から50程度の状況から始めることが推奨される。患者の不安が強いときには、SUDSが25-30の場面でも良い。また最初の課題は、印刷物を見る、などの現実の危険がまったくないものを選んでも良い。
c.想像エクスポージャーの治療原理と手続の説明。
・現実エクスポージャーを無事に終えることが出来たら、その経験を踏まえ、記憶に対するエクスポージャーへと導入する。回避の欲求を当然のこととして認め、記憶に触れることによって恐怖の馴化と記憶の整理(記憶と現実の被害の区別など)が生じること、そのことのもたらす意味を想像エクスポージャーの後で検討する(処理)ことによってトラウマ記憶の苦痛が軽減し、PTSDが改善することを伝える。
対話的に必要に応じて比喩を使うなどの工夫をし、患者の理解を促進する。
・たとえば次のような言い方で想像エクスポージャーの説明をしても良い。今日の面接では、主にトラウマ(実際のトラウマ被害を示す言葉を使う。あるいは、患者が自分で使っているそのトラウマの呼び名を使う。例えば「くるまの事故」など)の記憶に立ち戻っていただきます。この体験が何だったのか、どんな意味があったのかを考えることはなかなかできませんよね。トラウマというのは大変恐ろしく、つらい体験ですから、あなたがその嫌な記憶を押しのけたり、避けたりするのは当然のことです。あなたは、「もう考えないようにしよう」とか、「時間が経てば癒やされる」とか、「そのことは忘れなくちゃ」などと、自分に言い聞かせていませんか。他の人たちも、あなたにそうしなさいと言ってくることがありますよね。友達や家族やパートナーは、トラウマのことについて聞くのを嫌がるかもしれません。そんなことを考えると余計にトラウマについて話さなくなってきますよね。けれども、すでにお分かりのように、トラウマについての考えをどんなに押しのけようとしても、その記憶はまたやってきて、つらい思いやその時の感情や悪夢がフラッシュバックとなってきてあなたを悩ませます。このような再体験症状はトラウマがまだ『きちんと処理されていない』しるしなのです。
・強力なイメージや記憶を頭から追い払うのは不可能でないにしても困難である、それよりはそのイメージと記憶に意識の焦点を当てることが役に立つということを説明する。トラウマ記憶を処理することが非常に困難であるが、重要だということを隠喩を用いて説明する。
「ホットスポット」では、トラウマ記憶の中で今現在もっとも苦痛を感じている部分を抜き出し、繰り返してその記憶に触れて話すという方法である。これによって、もっとも苦痛の強い部分に対する馴化、記憶の整理が効果的に生じる。
・想像エクスポージャーの治療原理は、次の5つの事柄に要約される。
①記憶を処理し、整理すること。
②トラウマの出来事を「思い出す」ことと、「再びトラウマ被害を受けること」の区別を促進すること。
③馴化を促進すること。
④トラウマの出来事とそれに類似する事柄の区別をさせること。
⑤自己制御とコントロールの感覚を強化すること。
患者の「安全行動」に気がついたら、こうした微妙な回避をしているので、恐怖やトラウマについての非現実的な思い込みが治らないのだと説明する。
オーバー・エンゲージメントの患者のためのもう一つの選択肢として、トラウマ記憶を声に出して語るのではなく、書いてもらう方法がある。自分が支えられ、現在に足を付けていると感じてもらうためには、治療者は何をすればよいのかと患者に聞くことも勧められる。
内気と不安を軽くする練習帳 (原書名:Overcoming shyness and social phobia)
社交不安の認知行動療法について、非常に丁寧に書かれている本。
人前で話すのが苦手、緊張して上がってしまう、自然に人付き合いができず、社交をつい避けてしまうという状態は「社交不安障害」と呼ばれる。もっとも頻度の高い精神的な困りごとの一つで、有病率は一割を超える。しかし、自分を縛る不安の正体を知って、有効なトレーニングを積めば、改善は十分可能だ。実際にカウンセリングセンターで使われるプログラムを紹介しながら、克服の方法を実践解説。
対人関係療法でなおす 社交不安障害 自分の中の「社会恐怖」とどう向き合うか
具体的な治療法、不安にとらわれるメカニズムの解説などを解説した、SAD治療の入門書的な本。
わたしは数年前にこの本を読んだことがきっかけで治療につながれました。
ではでは![]()





