日本の携帯メーカーは中国から永遠に「さよなら」するのか【コラム】

 11月下旬、NECが中国の携帯電話市場から撤退すると発表し、大きな波紋を呼んだ。松下電器産業、東芝、三菱電機など、日系携帯メーカーは少なくとも今の時点で世界最大の市場である中国で全滅したことを意味する。携帯ユーザー4億人以上、年間販売台数7000万―8000万台の中国市場はグローバル企業の最重要市場といっても過言ではないが、高い技術力を誇る日系メーカーはなぜその姿を消さざるを得なかったのか?(肖宇生の「中国IT最前線」)

■日系携帯メーカー最後の砦―NECの敗退

 2005年以降、松下、東芝、三菱などの日系メーカーが相次ぎ中国市場から撤退を余儀なくされた。そしてついに、10年の中国進出の歴史を持ち、日系メーカーで初めて中国人を経営トップに起用したNECまでが撤退に追い込まれた。これで規模の小さい京セラを除き、日系メーカーは全面敗退することになったのだ。

NECが中国などに投入した携帯電話

 NECは第2世代(2G)および2.5Gから撤退し、3.5G市場に経営資源を集中させると説明しているが、当面の間2.5Gと3Gの並存が予想される中国市場での再起は日系メーカーにとって困難を極めるといわざるを得ない。中国市場においてカメラ付携帯の先駆けであった松下、中国初の100万画素のカメラ携帯を発売したNEC――。中国で日系メーカーの双璧をなしてきた両雄の無残な姿は日系メーカーの全体的なイメージにも計り知れない打撃をもたらした。


■日系携帯メーカー国際競争力低下の真相


 反省すべき敗因は実に多い。目に見える原因だけでも、製品ラインアップと販売チャネルの貧弱さ、経営スピードの欠如、マーケティング戦略の一貫性のなさなどが挙げられる。ラインアップについては、欧米メーカーが年間40近くの新機種を投入しているのに比べ、日系メーカーは上位でも10―20機種にとどまっており、市場での存在感が欠けている。さらに、経営判断のスピードの欠如により市場ニーズがあるのに新機種投入の機を逸し、たまにヒット製品を出しても販売チャネルが弱いためうまく販売につながらない。

 マーケットにおけるポジショニングも定まらなかった。ハイエンド端末への集中とローエンドを含む全面展開の間で右往左往し、その迷走ぶりはとてもグローバル企業には思えない。これではしっかりした現地戦略を持ち、しかも資金力でも勝る欧米メジャーや韓国メーカーとの勝負に勝ち目がないのは当然かもしれない。

 この結果、2005年のマーケットシェアは日系トップのNECでもわずか2.3%しかなく、2位の松下は2%以下、それ以降はほとんど1%未満で「その他」集団になり下がっている。「中国市場は特殊だ」と片付ければそれまでだが、こういった客観的な日系メーカーの「弱体化」を引き起こした元凶は現地化戦略の不徹底やマーケティング機能の不在など日系メーカーの国際競争力の低下そのものだと認識しなければならない。



■敗因は日本市場にあり

 日本の携帯市場が成熟化してしまった現在、成長を続ける世界市場に出て行くことが日系メーカーにとっては重要だ。しかし、海外市場における日系携帯メーカーの衰退は凄まじい。2005年度の世界のマーケットシェアは松下とNECがそれぞれ1%前半で8位と9位と、上位メーカーとの差は開くばかりだ。

 「国際競争力の源泉は国内市場にあり」といわれるが、日系メーカーの国際競争力がここまで低下した原因は恐らく、日本の国内市場の構造に求めないと答えは見えてこないだろう。周波数、資金、技術などすべての経営資源を通信キャリアが握っている日本の独特な市場構造は、携帯メーカーから独自な経営戦略を奪い取り、ただの「下請け工場」にさせたのだ。

 サービスの創出から端末の販売まで産業チェーンのすべてを握る通信キャリアに対して、携帯メーカーはキャリア依存体質が出来上がってしまった。マーケティングなど自らの戦略を考えることもできず、自立の道を放棄せざるを得なかったのだ。キャリアは販売奨励金制度を活用し市場を拡大してきたが、その恩恵はメーカーに還流されず、海外市場開拓に必要な原資を、競争力の源泉であるべき国内市場から得られないという状況に陥っている。

 2006年3月期の業績を見るとNTTドコモやKDDI、ボーダフォン(現ソフトバンクモバイル)のキャリア3社がそれぞれ8326億円、2966億円、763億円の営業利益を上げたのに対し、松下とNECの上位2社でも携帯事業で84億円及び250億円の赤字を計上するしかないという惨状は、いかに通信業界の競争構造がゆがんでいるかを象徴している。

 もちろん、中国、そして世界市場での惨敗はメーカー自身の責任でもある。しかし日本国内の市場構造がこのままである限り、海外で成功するためにはメーカーの自助努力をはるかに超えるハードルが横たわっているのだ。


■日系メーカーが中国市場に戻る日は来るのか?

 3Gにおける日系メーカーの優位も薄れてきている。マーケティングのノウハウや資金力の欠如、小規模・高コストの生産体制など、どれをとっても欧米や韓国メーカーに劣る日系メーカーは、中国3G時代の幕開けに向けて再起を図ろうとしても非常に厳しいといわざるをえない。中国の3Gが日本のようなキャリア中心の市場構造に移行しても日本とはまた違う形になるだろう。まして、そのキャリアも残念ながらNTTドコモなどではなくチャイナモバイルやチャイナユニコムなのだ。欧米や韓国企業より中国キャリアとうまく付き合える保証はどこにもない。

 日系メーカーは日本国内市場の構造改革で自ら競争力をつけ、現地化戦略を徹底的に実行することができない限り、世界最大かつもっとも残酷な中国市場に永遠に「さよなら」をいうことになりかねない。

[2006年12月12日]


-筆者紹介-

肖 宇生(しょう うせい)

野村総合研究所流通アジアプロジェクト室

略歴

 1991年中国の大学を中退、来日。92年大阪大学経済学部に入学、96年卒業後に金融機関を経て99年一橋大学大学院経済学研究科に入学、修士号を取得。2001年大手電機メーカーで中国向けの携帯ビジネスに携わる。2003年に野村総合研究所に入社し、中国に進出する日系企業を対象にITコンサルティング、システム設計などを手掛ける。

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肖氏の分析によると、日本メーカーの敗退の要因は、製品ラインアップと販売チャネルの貧弱さ、経営スピードの欠如、マーケティング戦略の一貫性のなさなどを指摘している。また、日本の携帯市場の構造的な問題、即ち携帯事業者主導型モデル、これは端末メーカーに自主的開発能力を殺ぐほか、キックバックマージンによる販売モデルにより端末メーカーはそれほど価格競争を市場から強いられないため、まずは国内で儲けてという、内向き指向(志向、思考)なコーポレートカルチャーを作り上げた。

家電業界や自動車業界では、製品の高機能化、品質向上の改善を長年の積み上げて、低価格・低品質の代名詞と馬鹿にされたMade in Japanから高級・高品質の『日本ブランド』へと成功を成し遂げただから、携帯業界でも成功しないわけがない。

明らかに端末メーカーの海外での販売、マーケティングの努力不足の結果だ。

韓国Samsung, LG電子の欧米での成功、韓国Pantechや台湾hTcの日本進出の努力を見習って日本メーカーも悔い改めるべきだ。

ITUでもキーワードとなったNext Billion(次の10億加入の市場)をどう狙うかは日本メーカーの努力次第だ。

中国だけでなく、インド、ブラジル、ロシアをはじめ、東欧、中東、アジア、アフリカ、南米。

一度撤退したからといって大きな魚をみすみす逃すことはすべきではない。

もう日本のマーケットは1億加入で打ち止めの状況に来ている。

失敗の本質を見抜き、再びチャレンジすることを期待したい。そこには新たな可能性がある。