ソフトバンク、ボーダフォン日本法人1.7―2兆円で全株取得へ

 ソフトバンクは英ボーダフォンから、国内携帯電話3位のボーダフォン日本法人の全株式を取得する方向で大筋合意した。買収額は1兆7000億―2兆円の見込みで、日本企業による買収としては過去最大級となる。買収によりソフトバンクは固定電話から携帯電話まで手がける売上高約2兆5000億円の総合通信会社となり、通信第2位のKDDIに匹敵する企業規模となる。

 ソフトバンクは2月末までに英ボーダフォンに買収を提案、4日までに受け入れの回答を受けた。週明けにもデューデリジェンス(資産査定)を始め、買収額の最終交渉に入る。英ボーダフォンはボーダフォン日本法人の株式を約98%保有しており、保有分をすべてソフトバンクが買い取る方向。機関投資家などが保有する残り約2%は取得しない。3月末までの最終合意を目指す。

[2006年3月4日/日本経済新聞 夕刊]

ソフトバンク、英ボーダフォンと業務提携へ

 ソフトバンクは英ボーダフォン日本法人を買収するのを機に、ボーダフォン本社と携帯電話やインターネット分野で業務提携することで基本合意に達した。協力関係を深め、相互に技術やノウハウを供与する。ソフトバンクが出資するポータル(玄関)サイト世界最大手の米ヤフーも参加。世界で5億人の加入者を持つボーダフォンとソフトバンク・ヤフー連合が組み、携帯電話での動画配信などの新事業の国際展開をめざす。

 両グループは「戦略的提携」と位置づけ、世界的に需要が拡大すると見られている携帯電話向けの動画配信技術の共同開発を柱にする見通し。日本で実績のあるソフトバンクの動画配信ノウハウを活用。課金システムやネット広告のビジネスモデルを提供する。携帯電話を使ったネットオークションや金融決済など新サービスの開発や共同運用も手掛ける。

[2006年3月5日 Nikkei Net]

通信、競争軸激減へ・ソフトバンク、ネット配信武器

 ソフトバンクによるボーダフォン日本法人の買収によって、1985年の自由化以来の通信再編は一段落し、NTT、KDDI、ソフトバンクの3グループによる総力戦が始まる。ソフトバンクは巨額買収のリスクを背負うことになるが、同社のコンテンツ(情報の内容)やサービスは巨人NTTにも脅威。競争の激化が料金引き下げや多彩なサービスの登場を促す可能性もある。

 「どんな手段であれ必ず携帯電話事業に参入する」。かねて孫正義社長が宣言していた通り、ソフトバンクは最短距離で携帯市場への進出を果たす。だが、2兆円規模の買収という乾坤一擲(けんこんいってき)の勝負に課題も少なくない。

[2006年3月5日 Nikkei Net]

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ソフトバンクによるボーダフォン日本法人(旧J-Phone)買収は日本のみならず、英国、世界でもニュースになっているが、通信三国時代のいよいよ最終章に入ったことを示している。

(英ボーダフォンによる日本マーケットからの撤収といったほうが良いか?)

NTT法、独占禁止の監視による足枷を履いたNTTグループ、auが好調とはいえ固定系に苦戦するKDDI、ADSLのみが好調だが、携帯ではいまひとつ成長戦略を描ききれないソフトバンクグループ。

この三つ巴の競争に、固定通信の光化という流れ、新規参入事業者参入、携帯番号ポータビリティ(MNP)という携帯電話事業の競争激化、FMCという御旗の下での固定事業者と携帯事業者と融合の流れ、さらには配信事業と通信・放送の融合と流れ、新たな電子マネー事業、この中で3つのグループはどのようにして生き残り戦略を考えているのだろう。

1.固定通信の光化の流れ(コンシューマー+BBインフラ)

インターネットアクセスサービス、オンラインサービスの盛況に重要なBB加入者の急速な増加をもたらし、貢献してきたADSLがここにきて急減速してきている。No.1のNTT東西・フレッツADSLは最盛期で月間30万加入の増加あったものが、次年度は減少に転じるとの事業計画を発表している。ソフトバンク(Yahoo!BB DSL)も月間1万加入の増加しかなく、500万加入で停滞している。3位のイーアクセスも150万加入程度で停滞、4位のACCAはコンシューマーよりむしろビジネス向けにシフトしている。

一方の光アクセスサービスは、去年の倍増で合計加入者は2005年12月末で460万加入を超え、2006年3月末には500万加入を超えているだろう。2位の関西電力系K-Opticom、KDDIと提携を表明したTEPCO光、USENも力を入れているが、ソフトバンクあるいは新興のイーアクセス、ACCAは全く力を入れていないでNTT東西の独占がつづいている。

現在のBB加入者2300万加入(世帯数の50%加入率)は2006年末にはADSL約1500万、光は700~750万加入に到達し、CATVの350万も含め、BB加入者は2500-2600万加入に到達し、1/3を光が占めるようになり、鮮明に光にシフトしてきている。

こうなるとBBインフラの競争はますますNTT東西が独占していくことになる。これに対してKDDIやソフトバンク、イーアクセスの苦戦は必死である。ということは、携帯事業にこれから莫大な投資をつぎ込まなければならないソフトバンク、イーアクセスは稼ぎの中心に成長したADSL事業に早くも黄信号がともり、携帯事業へも大きく影響するだろう。ACCAはNTTコムとともに生き残りの道(ビジネスユーザ獲得?)を模索するしかないだろう。

その意味でもソフトバンクの選択肢としては自らが一から築き上げるより買収したほうが手っ取り早い道(あるいは唯一の選択肢?)だった。これでイーアクセスには携帯ローミングはドコモしか相手がいなくなった。

2.携帯通信の競争激化の流れ

通信ビジネスの中で唯一好調だった携帯電話事業、NTTドコモ、KDDI(au)、ボーダフォン(旧Jフォン)による寡占状態にあったマーケット、これが10数年ぶりの競争原理がもたらされた。新規参入によりソフトバンク、イーアクセス、IPモバイルに無線事業の免許が付与された。2006年後半、もしくは2007年からの本格参入に向けてマーケットが熱くなってきている。これに唯一PHSで生き残ったウィルコムを交え、激しい加入者獲得競争、価格競争が繰り広げられている。

既存3社はこれからの競争に備え、高速広帯域に向けた3Gへの投資、コンテンツビジネス確立に向けた高機能端末開発競争、これまでの3社間での競争により加入者は9000万加入(うち3Gは4000万超)を越えた。PHSの300万加入を加え、人口対加入率では70%を越え、次第に飽和化減少へ進みつつある。年間の増加率は250-300加入増であるから2006年、2007年には9500万程度になり、これに新規参入事業者を加えると1億超、80-90%の加入率となり、いよいよ飽和現象に拍車がかかり、ますますの加入者獲得のための価格低下競争が進んでいる。事実、PHS事業者ウィルコムは音声サービス定額制へ突入し、これにau、ドコモ、ボーダフォンがデータ(メール)定額制に突入してきている。

さらには2006年後半、2007年から本格的にMNPサービスが始まり、携帯番号はそのままで他のサービスのよい、あるいは端末のかっこいい携帯事業者へ移ることが可能になる。これにより現在苦戦を強いられているボーダフォンあるいはいくら好調とはいえドコモあるいはauも加入者引きとめ対策に投資を余儀なくされるだろう。

特に、ソフトバンクの参入はドコモ、KDDIに大きなインパクトを与え、あらゆる営業政策、マーケティング戦略を変えていくだろう。しかし、これは固定通信で起こったソフトバンク(Yahoo!BB)による価格低減、加入者増進をもたらすだろうか?自前で携帯への参入を描いていたソフトバンクは予想以上に投資がかかると見るや突如としてソン様は設備投資に慎重な姿勢を見せたが、ここに来て予想通りボーダフォンを手に入れたソフトバンクはADSLとは同じ道をたどり、Yahoo!(日本法人)あるいはTVバンク、あるいはVF本体に活路を見出すかもしれない。

こうなるとインフラ投資回収モデルのドコモやKDDI(au)には脅威だろう。これまでの通信料ARPUからコンテンツ回収ARPUに益々舵を切らざるを得なくなる。

さらにはその後ろにWiMAX vs HSDPA/HSUPAという3.5G間の争い、携帯のALL-IP化への投資も控えており、これまで以上に加速する技術の進展も頭痛の種である。

こうなると携帯インフラの競争はNTTドコモ、KDDI(au)やソフトバンク(ボーダフォン)の三つ巴へますます寡占化して行き、体力勝負となるだろう。、イーアクセス、IPモバイル、ウィルコムは苦戦し、3社への吸収・合併、売却というシナリオが描ける。

この点からもソフトバンクは生き残りのためにもボーダフォン買収が近道といえる。

3.FMCと固定・携帯事業者の融合

NTTグループの発表した事業計画では次世代NGNにはNTT地域会社が主体となるが、固定通信のことしか描かれていない。即ち、携帯インフラは以前ドコモが主体となる。つまり、FMCに向けたインフラは相変わらず、ドコモ、NTT持株・東西の縦割りのままで、サービスへの統合のシナリオが見て取れない。また、独占の足枷により再編論議再燃に繋がりかねないセンシティブな問題であり、掛け声はかけるが到着地点が読み取れないので時間稼ぎをするだけだろう。

一方のKDDIは唯一の固定・携帯事業を単独で提供しているため、オノデラシャチョーの掛け声のもと、ウルトラ3Gコンセプトにより邁進はしているかのように見える。しかしながら、固定電話での『メタルプラス』あるいは『光プラス』事業の失敗、東京電力/パワードコムの買収による効果・成長路線を描けていないため、掛け声倒れに終わるだろう。

そしてボーダフォンを手に入れたソフトバンク、こちらの固定通信事業・日本テレコム『おとくライン』も金食い虫状態でうまくいっていないが、旧知の仲であるJフォンとは意外とうまくいくかもしれない。データ系はADSLで成長が止まったYahoo!BBと最も3Gへの取り組みが遅れたボーダフォンの組み合わせで、必死こいてうまくいくかもしれない。3社の後発であるから。。

イーアクセスはADSL+WIMAXといった組み合わせで新たなチャレンジを仕掛けられるかもしれない。

4.配信事業と放送・通信の融合

USEN Gyaoの成功による配信事業への期待、あるいは携帯での着うたフルの成功、ここに来てiPODによる音楽配信の成功と映像配信への進出と、固定・携帯を問わず配信事業には関心が高まってきた。

NTTグループではドコモの楽天との提携、日テレとの提携、レゾナントによるgoo(ポータル)、子会社による4th mediaあるいはコムのOCNシアター、KDDIではEZWEB/着うたフル、ワンセグ対応あるいはマルチマッチングBB(ゲーム)、DION BB配信、ソフトバンクではBB!TVによるADSLでの配信経験、TVバンクの設立、Yahoo!(ポータル)、ガンホー(ゲーム)、そしてボーダフォン買収による携帯への映像配信提携と、3社とも既に配信事業による新たな収益モデル確立に向けて固定・携帯を問わず、試験、導入、提携とに向けてアクションを起こしている。

3社では携帯のドコモ、auの着うたでは先行・成功しているが、この分野はまだ模索状態にある。特にコンテンツ配信は著作権の問題が尾を引いており、政府主導の下著作権手続きの簡素化、IPによる地上波再放送の問題、コンテンツ世界戦略等々解決していくことにより、放送と通信の提携・融合あるいは放送事業の再編へと進むだろう。

この分野では有力なポータル、コンテンツ配信の経験からソフトバンクがリードしており、ボーダフォンとの提携により国内外を問わず携帯分野への展開を加速化させるだろう。NTT、KDDIにはコンテンツ側のプロ(グループ会社も含め)がいないので、この分野では提携を加速化させるべきだろうが、提携はうまくいかないケースが多い。専門会社の買収も含め、本気で考える必要があろう。

5.新しい電子マネービジネス等

ドコモやauの電子マネー化対応端末のスタートにより携帯事業の収益モデルの模索が始まっている。当面はJRとの提携や電子小銭入れ程度からのスタートであるが、これはSUICAやEdyが急速に成長したように一旦加入者数が指数関数的に加速するとますます仕組みが便利になっていき、携帯事業の新たな収益モデルとして確立されるかもしれない。

ボーダフォンはまだこの分野では遅れていたが、ソフトバンクによる買収で大きく変化していくだろう。

6.まとめ

ソフトバンクによるボーダフォン買収による影響をランダムに、思いつくままに書いた。予想が当たるかどうかは分からないが、ただ一ついえるのはADSLの参入時と同様、何をするか分からない(コンテンツや過去のビジネスモデル)人種が、通信しか知らないNTT、KDDIと本格競争ができる基盤を手に入れたということである。これにより、益々3社に寡占化されていき、価格競争により基本サービス価格が低減していくことも確実であり、ネットワークインフラとしてのマーケットが縮退していくことは確実である。

しかしながら、一方でパーソナルインフラで携帯端末をプラットフォームとするコンテンツ流通マーケットが拡大していくことも確実である。