管理職を目指す方への「事業計画策定の要諦」(5)・・・時間価値のあつかい方

 

 

計画策定で出てくる課題

いくつかの前提条件の異なる収支計画を比較するには、計画上の収益金額を同じ土俵で比較できるように調整します。例えば、以下の3つの投資計画を比べてみて下さい。

 

(第1案)10年間で15億円を稼ぎ出す設備投資計画

(第2案)3年間で15億円の転売益が期待できる不動産投資

(第3案)5年間で8億円の利益を期待できる異業種進出

 

第1案と第2案は、同じ収益を稼ぐまでにかかる時間が違いますので、投資案件の質を問題にしないのであれば、比較は容易です。ただし、自社事業の経営環境と、不動産の投資環境の将来予想が異なるのであれば、それを勘案した意思決定が必要です。

 

第1案と第3案では、収益計画金額もそれに要する期間も異なります。第3案はリスクも高そうです。少なくとも、5年後の8億円と10年後の15億円を比較評価しなければ、どちらの期待収益が高いのかわかりません。こうした異なる金額や回収期間の計画を、どのようにして比較したらいいのでしょうか?

 

 

時間と共に変わり得る貨幣価値

貨幣価値は、「いつまで時間が経過してもその価値は変わらない」という代物ではありません。

 

例えば、今ある現金で5年後も同じ製品を同じ量だけ買えることがわかっているのであれば、5年たっても貨幣価値は変わらないことになります。

 

一方、今100万円で買えたものが、5年後に値上がりしていたら同じ100万円でも買える量は減ってしまいます。インフレが進んだ分だけ、貨幣価値が下がったことになります。

 

こうした貨幣価値の変動を、現在の価値に置き直して比較する考え方を、割引現在価値法(DCF法:Discount Cash Flowと言います。

 

 

現在価値を算出する一般式

「今の100万円は、5年後にインフレが進んだ分だけ貨幣価値が下がる」という前提で5年後の貨幣価値を算出するには、インフレで減価する貨幣価値分だけ見積もって、100万円から控除すれば良いということになります。毎年のインフレ率を想定できれば、今の100万円の5年後の価値を割り戻して計算すれば良いのです。

 

極端な想定ですが、今後5年間の年間インフレ率が10%とすると、

今の100万円の来年の価値・・・100万円÷(100%+10%)=90.9万円

⇒物の値段が10%上がるということは、お金の価値がそれだけ下がるという意味です。

 

2年目はどうなるかと言うと、最初の年に10%減価したお金の価値が、さらに10%減価することになりますので、要すれば複利で減価が進むことになります。

今の100万円の2年目の価値・・・100万円÷(110%×110%)=82.6万円

 

3年目以降も、減価率の部分を経過年数分だけべき乗して算出することになります。

今の100万円の年後の価値・・・100万円÷(110%のN乗)

 

毎年100万円の利益を出す事業計画の現在価値は、上記の計算で5年分の「100万円の現在価値」をそれぞれ算出して、それを合計すれば良いことになります。いくつかある事業計画の現在価値を比較するのであれば、それぞれの事業の計画利益の現在価値を算出して、その過多を比較評価すれば良いことになります。

 

こうした計算は、エクセル等の表計算ソフトに関数として組み込まれていますので、算出自体は難しくありません。関数を使わないまでも、個別にセルに計算式を設定すれば、容易に算出できます。設定式の事例を、あげておきましょう。

=N年次の計画キャッシュフロー /(1+想定インフレ率)^N

 

 

 

ここでは便宜上、インフレ率を想定して説明しましたが、実際の事業計画では期待利益率や資本コストを想定します。次回は、資本コストについて説明します。

 

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