管理職を目指す方への「決算書早読み術」(11)・・・ひとまず「まとめ」

 

 

お取引先から計算書類をいただいたら、その場でサッと事業の概要をつかむスキルに主眼を置いて説明してきました。ここでいったん、お取引先に伺って計算書類をいただいた場面を想定しながら、短時間で概略をつかむ手順をまとめておきます。

 

 

まず損益計算書の利益を見る

貸借対照表を見る前に、黒字か赤字かを確認するだけでOKです。

 

 

純資産の変動を見る

純資産(資産と負債の差額)が増えているのか、毀損しているのか、健全性を判断する視点で見ます。黒字で純資産が増加しているなら財務が安定する方向に事業が向いていますが、赤字で純資産が減少しているなら財務不安定化に向かっていることになります。

 

純資産がマイナスの状態を「債務超過」といいます。赤字が累積していくと、債務超過に陥ります。仮に会社を解散して全ての資産を売却しても債務を返済できない状態です。こうした会社に対して持っている債権は、回収できない可能性が高くなります。要注意です。

 

 

流動資産と流動負債の金額を比べる

短期支払い能力を見る観点で、流動資産と流動負債の大きさを比較します。流動資産が多いようなら、目先の資金繰り破綻はなさそうです。

 

流動負債が多いようなら、返済期日の近い負債(特に営業循環過程で発生する支払手形や買掛金)をすぐに換金できる資産だけでは払えないということですから、遠からず資金繰りが汲々としてくることも考えられます。黄信号といったところです。

 

 

当座資産と流動負債の金額を比べる

これも短期支払い能力を見る観点で、当座資産(現金預金 + 受取手形 + 売掛金 + 短期保有の有価証券)と流動負債の金額を比較します。

 

当座資産の方が多いようなら、手元にある現金預金と営業活動で資金化できる資産などで流動負債を賄えるということですから、目先の資金繰りに不安感はないということです。

 

 

固定資産の金額が「固定負債 + 純資産」に収まっているかを確認する

流動資産が流動負債より多いようなら、固定資産は「固定負債 + 純資産」の範囲に収まっています。これは、事業を支える設備資産等が、すぐに返済する必要のない長期借入金や自己資本で調達されていることを示しています。財務基盤は安定していると判断できます。

 

ここまでのところで出てくる加減算では、1円単位まで計算する必要はありません。特に、お取引先から計算資料をいただいたその場でザッと概略をつかむような場合には、千円単位や百万円単位で概算して感触をつかめれば十分です。

 

 

売上高を前期実績と比べてみる

目を損益計算書に移して最初に見るのは、売上高の増減です。これが前期比で減っているようなら、その原因が販売数量の減少にあるのか、販売単価の低下にあるのか、その場で聞いてみましょう。

 

数量が減少するにしろ、販売単価が低下するにしろ、競合負けが心配です。挽回の手立てを考えているようであれば、前期の流れを今期で断ち切れるのか、見込を聴取していきます。

 

 

売上高総利益額を前期実績と比べてみる

これも売上高と同様、事業基盤が安定しているかを一義的に概観する目安になります。売上高の増減に伴って売上高総利益も増減しているようなら、販売先や仕入先との取引関係などの事業基盤に大きな変動はないと推定できます。

 

 

営業キャッシュフローがプラスかマイナスか確認する

損益とは別に、現金収支の基盤である営業キャッシュフローがプラスになっていることを確認しておきましょう。マイナスなら、本業の活動でキャッシュが足りなかったことを示しますので、その原因をお取引先に確認しておきます。

 

特に売上債権と棚卸資産から生み出されたキャッシフローがマイナス(売掛債権や棚卸資産が前期比増加している)なら、事業活動が上手くまわっていないことが懸念されます。

 

 

売上高利益率などの細かな指標は、貸借対照表科目と合わせて読み込みたいところですから、計算書類を持ち帰って検証するのが適当です。比率計算の方法は、本ブログの(7)から(9)をご参照ください。

 

質問事項などが出てきたら照会できるように、お取引先に後々連絡するかもしれないこと等を、お願いするようにしましょう。

 

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