遠くまで行く秋風とすこし行く  矢島渚男

 

 

 芭蕉は奥の細道の旅に際して、住み慣れた江戸深川の芭蕉庵を閉じている。それまでの生活を断ち切って、覚悟の旅である。

 そういう故人の漂白の旅と比べたら、今の旅は安易である。東京から静岡・長野・新潟・福島・宮城などは新幹線に乗れば通勤時間と大差なく行けてしまい、日帰りも可能である。そこには、それまでの生活を打ち捨ててなどという覚悟は微塵もない。そんなものでも旅と言えるのか。そう振り返ることもなく、小さな旅を繰り返す。

 写真は久能山東照宮。